小説2

□鏡の中の猫
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「皆はよぉ、俺の能力をくだらねーって言うけどよぉー。そんな事ねえ。使い方次第だぜぇ」
そう言って笑うホルマジオ。深夜のアジトで、二人で飲んでた。正式には、アジトの洗面所の鏡から入った、マンインザミラーの世界。
「はは、プロシュートの野郎がよぉー、小さくなるだとかくだらねぇだの言うけどよぉ。現にこの能力で今まで失敗もなくやってきてんだぜぇー、俺は!」
「そうだな」
彼は飲むといつも以上によく喋る。俺は喋るのはそう得意なほうではないから、相槌をうってやる事くらいしか出来ないけれど、それでも彼――ホルマジオは楽しそうにしてくれる。
「あー…やべえ、もう2時かよ。眠たくなってきた」
「寝るんならあっちの部屋に行けよ。風邪ひくぜ」
アジトには奥にリゾットが仮眠室にしている部屋がある。そこにはベッドがあるんだが、こうやってリビングで飲んでるとホルマジオは毎回、そのままソファーで寝てしまうのだった。
「いや、まだ寝ねぇよ。酔いが回ってきたからよ、ちょっと横になるだけ…」
ああ、もうコレは駄目だ。数分後にはイビキをかいているに違いない。
毛布を持ってきて掛けてやる。ありがとな、と呟いた彼は、すぐ寝息をたてはじめた。
世話がかかるけど、憎めない。リラックスしきった寝顔を見て、クスッと笑ってしまった。
俺も寝ようかと思ったが、彼ほど飲まなかったし、なにより日頃、昼夜逆転の生活をしているせいで、全く眠くない。
仮眠室のベッドに腰かけて、煙草に火を付けた。
ホルマジオのさっきの言葉を思い出す。くだらなくなんてない、使い方次第…。自分の能力をそう素直に賞賛できるあたりが羨ましい。
俺は、マンインザミラーを手放しに自慢は出来ない。暗殺には、もってこいなのだ。それは間違いない。
だが、姑息な能力だといつも感じていた。俺だけが自由に振る舞える自分の世界に他人を引きずり込み、殺す――。
ひどく、陰湿だ。


鏡の中のアジトは静まり返っていた。窓を開ける。虫の声さえしない。当然だ。ここにいるのは、俺と、俺が許可したホルマジオだけ。
ホルマジオは近頃よく俺と二人、鏡の中で過ごす。最初、彼がそう望んだ時は驚いた。賑やかな場を好む彼。興味本位で鏡の世界に来ても、すぐに気味悪がって出ていっちまうかと思ったのに。意外に彼は、この世界で俺とくつろぐのが心地良いみたいだ。
短くなった煙草を灰皿に押し付けると、ベッドに寝転び、彼を想う。
あの陽気な表情だとか、少しハスキーな低い声。猫を愛でる優しさ…いや、猫に限らず彼は誰にだって優しい――。
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