小説2

□憧れの人へ。
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その夜も、いつものように自宅で漫画を描いていた所だった。
ちょうどきりの良い所で原稿を終わらせると、パソコンを立ち上げ、映画版・ピンクダークの少年の公式サイトをチェックする。
既にアニメ化はされていたが、初の映画化だ。公開は来週に迫っている。
ファンも心待ちにしていて、僕としてもかなり喜ばしい事なのだが、最近はこの映画化にあたりテレビや雑誌でもピンクダークの少年特集なんかが組まれ、インタビューやら何かと忙しかった。
そろそろ風呂に入ろうか、と思った時…。
廊下で物音がした。人の気配。
誰だ。玄関に鍵はかけてあるし、合鍵なんかを使って勝手に入ってくるような者もいない。
泥棒か…!?
ヘブンズ・ドアーを出そうかと身構えた時。
懐かしい声に驚いた。
「露伴ちゃん。いるんでしょ?露伴ちゃん」
「…鈴美か」
ドアが静かに開く。
現れたのは、やはり彼女。
杉本鈴美。…幽霊、だ。
「久しぶり、露伴ちゃん」
幽霊だけれど、足はある。にこにこと明るく微笑む彼女は、普通の人間と全く変わらない。
唯一おかしな所は、もう10月も半ばだというのに、いつもの薄手の白いワンピース姿だという事だ。彼女は暑さ寒さなんて感じないんだろう。
「全く、いつも突然現れるんだな、君は。毎回驚かされる」
「あら、恐かった?嫌ね。私は怖いお化けじゃないのよ?」
そう言ってクスクスと笑いながらベッドに腰かけた。
彼女は天国に帰ってからも、こうやって僕の前に現れる。
年に一度か、そのくらいのペースだ。天国の決まりなんか僕にはさっぱり分からないが、彼女いわく、やたらと頻繁にこの世に来てはいけないようだ。
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