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□二人の願いを夜空に架けて
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「…そろそろ勉強しなきゃいけない時期かぁ」


「だな。まぁ、お前の学力なら余裕で合格だろ」


「そうとは限らないよ。気抜いてたらすぐ成績なんて落ちるんだから」



そういう私に、孝介は頭の後ろに手を組みながら小さく溜息を吐いてみせた。


こうやって同じ道を一緒に歩けることも、来年の4月からは少なくなるんだなぁって考えると、今のこの時間が心底幸せで大切な時間だと感じた。
孝介とは同じ高校に行きたいけど、私はすでに志望校が決まっている。
正直言っちゃうと孝介の学力では無理に等しいレベルの高校だ。
私は一応、部活でバドミントンをやってたけど、この間の大会で引退になった。
元々上手い方ではなかったし、最後の大会なのにあっさり負けてしまった。
でも、そんな悲しみに浸っている時間なんてなくて、高校受験は刻一刻と私達に迫ってきている。
孝介達野球部はというと、見事地区予選通過。
孝介も、チームのレギュラーメンバーとして次の県大会へ向けて毎日毎日練習している。



「なんか、寂しいね」


「何がだよ」


「孝介と同じ学校に通えるのも、あと少しなんだよ」


「何言ってんだよ。まだ7月だろ」


「でも、後8ヶ月しかないもん」


「…………」



孝介が何も言わなくなって、異様な空気が二人を包んだ。
なんだか、しんみりした空気にしてしまったみたいだ。
チラッと目線だけで孝介の様子を伺うと、どこか寂しそうな表情で前を見ていた。



その時、ふと、ある店の横にあったソレが目に入った。
そこで私は、今日が7月7日だという事に気づく。



「ねぇねぇ孝介、あれ書いていこうよ!」



私の指差す先には、店の横の高い2本の笹。


返事を待たずに強引に孝介の手を引っ張る。
後ろから「引っ張んなよ!」と、少し荒げた声が聞こえてきたが、構わず走った。


近くでみると、笹には結構な数の短冊が吊り下げられている事に気づいた。
やっぱり、幼い子供が書いたような拙い文字が多い。
でも、その中には数枚可愛らしい女の子特有の癖字で書かれてるものもあって。
好きな人と両想いになれますように、と書かれた短冊が纏まって吊り下げられているのを見て、きっと友達みんなで一緒に書いたんだろうと思うと、なんだか笑みが零れた。



「ガキくせぇ」


「なんで?いいじゃん、こういうの」


「こんなの書いたってどうせ叶わねぇっつの」


「もう、孝介は夢がないなぁ」


「お前はこういうの好きだよな」


「当たり前だよ、女の子だもん」


「ははっ、女の子とか自分で言うなよ」



馬鹿にしたように笑った孝介は無視して、近くにあったペンを手に取る。
さぁ、何を書こうか。
本当なら、今のこの幸せな時間が一生続きますように、っていうのが一番の願いだけど、そんな願いは織姫にも彦星にも叶えられないって事くらい分かってる。
でも、女の子って叶えられないって分かっててもそれくらい書いちゃうところが可愛いんだろうな。
やっぱり私は、女の子って柄じゃないのかもしれない。



頭の中でごちゃごちゃと考えていると、隣から手が伸びてきて、もう1本置いてあったペンを取った。



「あれ?馬鹿にしてたくせに書くの?」


「たまにはいいんじゃね?こういう馬鹿みたいな事を馬鹿みたいに信じてみんのも」


「孝介、口悪すぎ」



さっきまでと違って、ニッと爽やかに笑った孝介。
孝介のこの表情、すごく好きだなぁって思った。
…口は悪いけど。



私とは違って、サラサラッとペンを走らせる孝介。
そして、書き終えるとそれを隠すように笹の高い所に吊るした。
笹の葉が邪魔で文字が見えない。
それに、私の身長では絶対に届かない位置。



「そんな所に吊るしたら見えないよ」


「見なくていいんだよ」


「えー、なんて書いたか教えてよ」


「やだね」



悪戯っぽく笑う孝介。
孝介は、いろんな笑い方をするな。
でも、どんな表情でも、好きだと、愛しいと感じてしまう。
きっと、私は孝介がいなきゃ生きていけない。



「…私も、いい願い事思いついた」



孝介を見ていて、ふっと思いついたその願い事。

今度は私がスラスラッとペンを走らせた。



「じゃーんっ、どう!?」


「『孝介達が全国までいけますように』…?」


「うん!だって、これが中学最後の夏だから」



そう言って笑うと、孝介の顔が一気に赤くなった。
それを隠そうと片手で顔を覆って横を向いたけど、そんなのバレバレ。
からかう様に顔赤いよ?というと、慌ててうっせぇ!と返してくる。
言葉は荒いけど、全然怒ってないってことも、全部全部お見通しなんだから。



「これ、孝介の短冊の隣に吊るしてよ」


「はいはい」


「それで、孝介の願い事は?」


「…………」


「…………」



また顔を赤くした孝介に、私の顔まで熱を帯びてきた。

沈黙が続いて、孝介がようやくボソッと口を開いた。




「……――……ょぅに……」




微かに空気を振るわせたその声は、私の耳の奥までしっかりと届き、木霊した。





きっと私達は、高校が違っても、どんなに離れても、何があっても、この願いに込めた想いで、繋がってるんだね。





二人夜空





『苗字名前と、一生一緒にいられますように』
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