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□冷たいキス
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「…好きだ」
「…私も、阿部が好き」
そう言葉を交わすと同時に交わされる深く、長いキス。
もう何度も繰り返したこの行為だが、飽きるなんて事はない。
それどころか、唇を重ねれば重ねるほど、私は溺れていく。
私の身も心も阿部に溺れていくんだ。
さて、ここまで言っておいて今更だけど、私と阿部はみんなが思うような関係ではない。
つまりは、恋人同士でもなんでもないただのクラスメイトだ。
…いや、正確には、クラスメイトだった、と言った方が正しいかもしれない。
今のこの曖昧な関係を、ただのクラスメイトで済ますには無理があるだろう。
そして、なぜ恋人同士でもない私たちが愛を囁き合い唇を重ねるのか。
誰もが疑問に思うことだろうけど、答えは至って簡単。
私が、阿部を好きだから。
私たちがこんな関係になる前から、私にとっての阿部はただのクラスメイトではなかった。
阿部は、私にとって他の男子とは違う特別な存在だった。
でもそれは私の一方的な気持ちで、阿部はきっと私のことはなんとも思っていなかった。
――そう、なんとも思っていないハズなんだ。昔も、今も。
お互いに「好き」だと言い合っていても、阿部の言葉には愛がいない。
私はとっくに気づいている。
言うならば、軽いセフレみたいな存在だ。
実際にはシたことはないからセフレではないのだけれど、互いの性欲を満たすためだけの存在という事には変わりない。
しかし、私の「好き」には阿部への愛がちゃんとある。
でもその愛に阿部は気づいているのだろうか。
きっと、気づいてない。
お互いに遊びの関係、と思っているだろう。
愛のない言葉と、愛のないキス、愛に気づかない阿部。
辛くて、苦しくて、痛くて、心が壊れそうになる。
それでもこのままの関係でいるのは、何故なのか?
自分でもその答えは出せない。
というより、その答えに気づかないふりをしているのだろう。
最初に言ったとおりに、私は阿部に溺れている。
阿部と交わす上辺だけの愛の言葉に、欲を満たすためだけの強引なキスに、溺れている。
それは、一度嵌ったら抜け出せない。
どんどん深く、濃く染まっていく。
冷たいキス
苦しいのにやめられない、病的愛の無限ループ。