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□桃色のキス
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午前最後の授業終了のチャイムが教室に響いた。
その音を聞いて今まで眠っていた俺の脳が少しずつ目覚めてくる。
机に突っ伏していた体を起こして大きな欠伸を一つした。と、その時。
「じゅーんーたくんっ!」
「っ!」
俺の名前を呼ぶ声と共に細い腕が首に巻かれて、肩に少しだけ重みがかかった。
ビックリして出そうになった声を咄嗟にノドで止めた。
冷静を装っても心臓は忙しなくドクドクと鳴っている。
「……せ、先輩、驚かさないでくださいよ」
「んー、ごめんね」
この人は、野球部マネージャーの3年生、苗字名前先輩。
ちなみに、つい先日付き合い始めたばかりの俺の彼女でもある。
ニコニコと悪気のなさそうに謝る先輩にわざとらしく呆れたように溜息を吐いてみせると、準太くん生意気ー!なんて言って俺の頬を抓ってきた。
見た目は普通に綺麗で大人っぽい感じがする。
が、見てれば分かるとおりに、行動や言動は正直年上とは思えないくらいに子供っぽい。
そんな事絶対本人の前では言わないけど(前に言った時は拗ねて一日口を聞いてくれなかった)。
まぁ、そのギャップに男の大半は惚れるっていうのも確かだ。
未だに俺の頬を抓ったままの先輩を制して、多分赤くなっているだろうそこを摩りながら問う。
「で、何の用すか?」
「ん?あぁ、実はね、お弁当作ってきたの!」
ジャーンなんて言いながら手に持っていた包みを俺の目の前に持ってくる。
それはもう、音符が飛び交うくらいに心底嬉しそうな顔で。
「ふふ、どう?一緒に食べよ?」
可愛らしく首を傾げて言われて、断る男がいるのだろうか。
いや、いるはずがない。
その仕草にやられた俺は、大人しく先輩と一緒に屋上で昼食を食べる事にした。
元々断る気なんてなかったけど。
「やっぱ屋上って気持ちいいね!」
温かい春風が優しく吹く屋上で気持ち良さそうに伸びをする先輩。
自然と俺の表情も緩くなる。
早速先輩の作ってきた弁当を広げて、二人で手を合わせた。
「「いただきます」」
弁当の中には綺麗な色とりどりのおかずが敷き詰められていて、見るからに美味しそうだった。
俺が一口食べると、ワクワクしたような目で俺を見てくる先輩。
言葉に出さなくても、美味しい?と俺に聞いてるのが分かる。
「すげぇ、美味いっスよ」
そういうと、でしょ!と言ってニコッと綺麗に笑う。
満足そうなその笑顔にドキッとして顔が火照った気がした。
赤い顔を見られないように少し横に逸らして、俺は弁当を食べ進めた。
それに続いて先輩も自分の分の弁当を食べ始める。
少しの沈黙が二人を包んだ。
だんだん気まずくなってきてどうすればいいかわからずに、俺は横目で先輩の様子を伺う。
すると、たまたま目が合った先輩がニコッと笑った。
ドキッとして少しだけ目線を逸らしたら、先輩が口を開いた。
「なんだか幸せだね、こういうの」
俺はもう一度先輩を見た。
いつもより大人っぽくふわりと笑った表情の先輩が、まっすぐに俺を見据える。
あまりの綺麗さに俺は、無意識のうちに、先輩にキスをした。
桃色のキス
二人の頬が桃色に染まる。