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□その嘘信じてもいいですか?
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人生の一大決心。というものを、私はしたのである。
ついさっき、そう、たったの10分くらい前。
…人生の一大決心はちょっと言い過ぎたかもしれない。
いや、でもやっぱり私にとってはそれくらい勇気のいる事かもしれない……って、そんな事は今はどうでもいい!
私は今、ケータイの液晶画面とにらめっこ中だ。
何故かってそれは、さっきから何度も言っている“決心”に関係がある。
震える指とどんどん速くなる心臓。
今更になって気づいた自分の弱虫っぷりに情けなくなってくる。
だって、決心したはずなのに、私の指はケータイで文字を打つ事を躊躇っているから。
私の決心、それは、幼馴染の孝介に想いを伝える事。
それは変に飾らなくても、たった2文字の言葉だけで伝わるはずの気持ち。
それなのに、その2文字を打つ事を躊躇っている私の指は、10分前の記憶がきれいさっぱり消え去ったかのように情けなく震えているだけだった。
でも、ここで止めるわけにはいかない。
ゆっくりと指先に集中して、「好き」の2文字を打つ。
画面に映し出されるその2文字を見つめていると、だんだん顔が火照ってくる。
羞恥心に耐えられずにクリアボタンを素早く2度押して文字を消す。
せっかく出した勇気を自分で踏みにじった事に、消し終わってから後悔し、項垂れた。
思わず溜息が出る。
私みたいなやつが一生彼氏とかできないのかなぁなんて考えてなんだか虚しくなってきた。
それでも、まだ諦めてはいない。
弱虫だけど、諦めは悪い。
それは既に自覚済みだ。
一つ大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせて、グッと勇気を振り絞った。
今度こそ消さないようにと携帯を握り締めて送信ボタンを押し、たった2文字だけのメールを、大好きな孝介へと送った。
孝介にメールを送信してから、20分が経過した。
送信前よりも送信後の方がドキドキするなんて知るはずもなかった私は、ベッドの上で未だに羞恥心に潰れていた。
後悔はしてない、と思う、多分。
ただ、恥ずかしさと、振られる、あるいは返事が返ってこないかもという不安感が容赦なく私を襲う。
突然、携帯が流行の曲を鳴らして震えた。
それは、メールの受信音ではなく、電話の着信音。
突然の事で心臓が跳ね上がって、誰かも確認せずに慌てて電話に出た。
「も、もしもしっ」
「お前は馬鹿かよ」
電話越しに聞こえた声にドクンと心臓が、いや、全身が脈打った。
緊張で上手く声が出ない。
聞こえた言葉は普段なら怒って言い返すようなものだけど、今はそんなの気にならない。
というか、気にしてるほどの余裕がない。
「…っこ、こうす、け」
「俺があんなんで引っかかると思ったか?」
「は…?」
孝介の言ってる言葉の意味が全くわからない。
意味不明な言葉に、緊張も解けた。
さっきは電話の主が孝介だと気づいてテンパってたから気に留めてる余裕がなかったけど、最初に言われた「お前は馬鹿かよ」の言葉の意味だってわからない。
私何もしてないのに、なんで馬鹿って言われてんの?コレって理不尽じゃない?
「あの、孝介は一体なんの話をしてるの?」
「は?さっきのメールの話しに決まってんだろ」
「っ!!め、めーるって…」
一気にさっきの緊張がまた蘇ってきた。
ヤバイ。私今、メール送ったこと後悔してるかもしれない。
こんな恥ずかしい想いするくらいなら、やめとけばよかったかも。
顔が信じられないくらい熱い。
でも、やっぱり孝介の言葉の意味がわからない。
引っかかるって、何?
私は、「好き」としか送ってないはずなんだけど…
「今日、エイプリルフールだろ。俺が引っかかってどんな反応するか見たかったんだろうけど、残念だったな」
馬鹿にしたような、勝ち誇ったような、そんな笑い声が聞こえてくる。
電話越しの孝介の顔が安易に想像できるような笑い声だった。
そういえば、今日は4月1日…エイプリルフールだ。
なにそれ、タイミング悪過ぎでしょ。
自分の馬鹿さ加減に呆れる。
本当に嘘の告白なら、いつもみたいに笑い飛ばせたのに。
嘘じゃないんだから、流石に笑えないよ。
これって、振られたのと一緒なのかな。
なんだか、勇気出して本気でメール送った自分が恥ずかしくなってきた。
「は、はは…残念だな。孝介なら、絶対…ひ、引っかかると、思ってたっのに、」
本気だなんて言える筈もなくて、無理して笑って話しを合わせようとしたけど、笑おうと思えば思うほどに涙が溢れてくる。
「なにお前、なんで泣いてんだよ」
「な、泣いてないっ」
「ばーか。んな嘘くらいすぐわかんだよ」
ばれない様にしなきゃいけないのに、声が情けないくらいに震える。
苦し紛れの嘘も、当たり前のように孝介には通じない。
「孝介のバカ!大っ嫌い!」
自分の気持ちに気づいてくれない孝介にムカついて、理不尽に自分の怒りをぶつけてしまった。
大嫌いなんて、これっぽっちも思ってないのに。
素直になれない自分が、つくづく可愛くないと思った。
暫く沈黙が続いた。
きっと、孝介は今頃目を丸くしてビックリしてるんだろうな。
そろそろ、怒って言い返してくるはず…と、思っていたのに。
「だから、エイプリルフールだろ?」
「な、なにが…」
「お前が俺の事、嫌いなわけねぇじゃん」
ようやく口を開いた孝介から返ってきた言葉が全くの予想外の言葉で拍子抜けした。
なんでこんなに自信満々なのか、わけがわからなかった。
私の今の顔なんて、鏡を見なくてもわかる。
きょとん、とした相当間抜けな顔なんだろう。
さっきまで溢れて止まらなかった涙も途端に止まった。
「な、何それ…!き、嫌いだもん!」
「ふーん。俺は好きだけど?お前のこと」
「は……?…ど、どうせ嘘なんでしょ!」
「さぁ?どっちだろうな」
孝介が、ニヤッと笑ったような気がした。
その嘘信じてもいいですか?
(どうぞ、ご勝手に)
(…じゃあ、信じる)