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□内気な少女の恋の行方
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眠くてつまんない授業を4時間終えてやっと訪れた昼休み。
仲の良い友達と一緒に笑いながら廊下を歩いていると、通りかかった7組の教室に大好きな彼の姿が見えた。
そういえば、今日はまだ1回も見てなかったな。


彼の姿が見えなくなるまで目で追ってしまっていた私の肩を友達の有里が楽しそうに叩いてきた。


「名前ったら、また水谷君のこと見てる」


「うん、だって好きだもん」


なんの躊躇いもなく言う私に、有里はわざとらしく溜息をしてみせた。


「そんなにすんなり言えるんだったら、さっさと告っちゃえばいいのに」


「何言ってんの。無理だってこと一番よく知ってるくせに」


有里は、まぁねと一言だけ返してすぐに次の話にうつった。
でも私の頭の中は、なかなか彼から離れない。



――告っちゃえばいいのに。



有里の言葉が頭で繰り返された。
さっきは軽く返事をしたけど、実際はそんな軽い事ではない。
結構、悩んでいたりするのだ。

そりゃあ私だって、できる事なら告白したい。
結果はどうでも、言わないで終わるのってサッパリしないし。
でも今の私にとっては、告白なんて到底出来るはずもない事。
バンジージャンプの方がまだ簡単だって思えるくらい。



だって……、



「名前!」


後から大きな声で名前を呼ばれて、肩がビクッと跳ね上がった。
思わず変な声が出そうになったのを両手で押さえる。


「み、水谷、くん…」


後からニコニコ走ってくる水谷君を見て、私の体温が一気に上昇していく。
体中の血がマグマのように熱くなったみたいだ。


「ゴメン、ビックリした?教室から歩いてるの見えたんだ」


「だ、大丈夫…」


あぁ、やっぱり。もう、嫌んなっちゃうなあ。


私は、水谷くんの前だと、緊張して何も話せなくなる。
今だって、金縛りにあったように動けないでいるんだ。

助けを求めるように、隣に立つ有里を見る。
すると、目が合った有里は口角をニヤッと上げた。
嫌な予感がした。


「有里っ、」


「じゃ、先言ってるね〜」


私の言葉は有里の言葉によってかき消された。
有里はなんとも楽しそうに笑いながら手を振って、さっさと一人で教室に戻ってしまった。
追いかけようとしたけど水谷君を残していくのは悪いし、そんな事をしたら嫌われると思って咄嗟にその足を止めた。
さあ、この危機をどう乗り越えようか。


何を言えばいいかもわからなくて混乱していた時に、水谷君が少し控えめに話を切り出した。


「あのさ、一つ聞いていい?」


「え?う、うん。何…?」


心臓が、ドクンと鳴った。
嬉しいとか、緊張とかじゃなくて、嫌な予感がして。


だって、水谷君の顔がいつもと違って、なんだか曇っているように見えたから。


「名前って、俺の事…嫌い?」


嫌な予感が、当たった。
なんで私の恋はこんなに上手くいかないんだろうか。
目の前が真っ暗になった。涙が出そうだ。


「話してても楽しくなさそうだしさ、なかなか目合わせてくれないだろ?」


下を向いて何も言わない私に、更に顔を曇らせた水谷君が言った。
声が、震えていた。

そっか、水谷くんも泣きそうなんだ。

…なんで?なんで、水谷君も泣きそうなんだろう。

水谷君のそんな顔、見たくない。
いつもの笑った顔が、好きだよ。


「…ぃじゃ、なぃ…」


「え…?」


「嫌いじゃ、ないっ…、水谷君の、こと…」


「……」


震えるノドに力を込めて、拳を握って勇気を振り絞って言った。
水谷君が、少し涙をためた目でじっと見てくる。

溢れ出る涙を力強く拭って、水谷君を見上げる。
拭ってもやっぱり涙は出てくるけど、目は逸らしちゃいけない。
もう一踏ん張りだ、頑張れ、私…


「い、いつも私、緊張して…う、うまく、話せない…から…っ」


そこまで言って、力が出なくなった。
声が震えてこれ以上は何も喋れなかった。


すると、上から水谷君の声が降ってきた。


「あ、あのさ…」


「……?」


「そんなこと言われるとさ、俺、期待しちゃうんだけど」


「へ?」


「だ、だってさ!名前、顔真っ赤だし、緊張って…そういう意味じゃねぇの?」


「そういう意味…?」


私は水谷君の言ってることの意味がよくわからなかった。
真っ赤な顔で焦っている様子があまりにもさっきと違いすぎてきょとんとしてしまった。



すると、水谷くんは赤い顔のまま私の目を真っ直ぐ見て――




「さっきみたいな反応されると、名前も俺の事好きなんじゃないかって期待しちゃうってことっ!!」




内気な少女の恋の行方



なんだか、叶ったみたいです。
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