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この教室のドアを開ければ、またいつもの日常が始まる。



ガラッ


「あー、名前ちゃんおはよー」


「おはよー!」


一番最初に声をかけてくれたのは、私の一番の親友。


「よ、苗字」


「お、はよっ、名前、ちゃん」


「二人ともおはよー!」


泉、三橋が続いて挨拶してくる。

そして……


「名前!好き!」


「……」


「名前!好き!」


「いや、2回も言わなくても聞こえてるから」


「じゃあ無視すんなよー」


「敢えて無視してるんです」


えー!とか言ってる田島を見て、私は朝から疲れが溜まるのを感じた。


「田島、一つ良いこと教えてあげる。朝の挨拶は“好き”じゃなくて“おはよう”なんだよ」


そう言い残して、私は教室から出てトイレへ向かった。
教室にいると疲れるから。



入学してからたったの2ヶ月。
にもかかわらず、田島は毎日のように好き好き言ってくる。
初めて言われた時は、そりゃ少しドキッとした。
でも、こんなに毎日言われると疲れる。
最近は面倒だから一切反応しない。

だって、田島の言う「好き」は、そんなロマンチックな「好き」ではない。
つまりは恋愛感情の「好き」ではなくて、友達としての、「ライク」の意味なのだ。
本人は「俺のはライクじゃなくてラブ!」とか言い張るけど。


改めて思うと、なんだか胸の奥がズキンと痛んだ気がした。
って、なんだこれ!これじゃあまるで私が田島の事を好きみたいだ。それだけは絶対にない!


頭を軽く振って下らない考えを頭から追い払ってからトイレを後にした。




教室へ戻るとすぐに田島が話しかけてきたけどその瞬間にチャイムが鳴ったから、田島は自分の席に渋々戻っていった。



そして私は、朝のホームルームの先生の話を睡魔と闘おうともせずにウトウトしながら聞いていた。
昨日はケータイを弄ってたら寝る時間が遅くなってしまった。
今日はちゃんと早く寝よう。
半分寝ている頭でそんなことを考えながら、私はゆっくりと夢の世界へ……



落ちていこうとしたその時。

コツン、と頭に何かがあたった。
私は眠りを邪魔されてイラッとして、後ろを勢いよく振り返った。
すると、斜め二つ後ろの席の田島が、ニカッと悪びれる様子もなく元気に笑った。

あれ、私今睨んでるんだけどな。
そんな私の睨みなんて全く効かないとでも言うような顔に、なんだか怒る気も失せる。
そのかわり、呆れたような顔で見てやった。
でも、それも田島には効かないようで、さっきと変わらず笑顔のままで私に口パクで何か伝えようとしていた。


あ、い?愛?いや、谷かな?兄?秋?カニ?……全然わかんない。


私が頭にハテナマークを浮かべて困惑していると、次は私の足元を指差して、さっきと同じ口パクをする。

私は指差された足元を見てみた。
そこには、小さく4つ折にされた紙が落ちていた。


……あぁ、紙って言いたかったのか。


田島の言いたい事がようやくわかった。
どうやら頭にあたったものはこの小さな紙だったらしい。
拾って中を開いてみた。



“眠そうな顔もかわいいけどゲンミツに寝ちゃダメだぜ!名前好き!”



…それだけ?つまりは私を起こすためにやったってことね。ってか最後の一言要らないよね。


もう一度振り返って田島を見ると、また口パクをしてきた。

今度は、なんて言ってるかがすぐにわかった。


“すき”だ。


そんな田島を見てると溜息が出てくるのに、何故だか自然と緩む口元。

なんでだろう。田島ってなんだか憎めないんだよね。

そんなことを思ってる私は、なんだかんだ言っても多分田島の事が好きなんだ。

勿論、「ラブ」じゃなくて「ライク」のほうで。

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(田島、私も好きだよ)

(え、マジで!?)

(ライクだけど、ね)

(なんだよそれー…)
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