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□それは、誓いのキス
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いつもの部活の帰り道。月明かりだけが私達を照らす。


私も孝介も無言のまま、ただ隣を歩く。
それはいつもの事で、今更何か喋ろうとか、気まずいなんて事は全くない。
寧ろ隣に孝介がいるだけで、私はかなり安心する。

二人分の足音が夜の闇に静かに響く。
まるで、世界中に二人だけのような感覚に陥る。
でも、その感覚は私にとって心地のいいもので、私が孝介の事を本当に大好きだという事の証明になる。
孝介とだったら、世界中に二人だけだとしても構わない。
コイツは頭がおかしいんじゃないか、って思う人もいると思うけど、これが私の孝介への愛なのだ。




ゆっくりゆっくり歩いて、私の家の前まで着いた。ここでお別れ。
本当はずっと一緒にいたいけど、そんなのただの高校生の私達には到底叶えることのできない願いだ。

家の前まで来て、今まで殆ど開かなかった口をようやく開いて私は声を出す。


「じゃあね孝介。また明日。」


静かに言った私に、孝介もいつも通りに笑って「また明日な」って……


「名前。」


孝介からは、いつもの言葉が返ってこなかった。
代わりに私の名前を呼ぶ孝介。
私の心臓は、まるで一気に血が流れていくようにドクドクと速く動く。
なぜか、初めて名前を呼ばれたときの感じを思い出した。
孝介の顔は暗くてよく見えない。
けど、声は落ち着いていて、真剣な顔をしている事が容易に想像できた。

孝介が、続けて口を開く。


「目、閉じて。」


私は、期待でいっぱいになった心を隠すように、言われたとおりに目を閉じた。
「目、閉じて」なんて言われて、期待しないなんて絶対におかしい。
心臓が張り裂けそうなくらい音を立てる。


すると、孝介の手が優しく私の手を掴んだ。
孝介の手は、私とは違って温かかった。
予想していなかった行動に一瞬ビックリしつつも、手から伝わる温もりに私の心臓がゆっくりと元の速さに戻っていくのがわかった。




そんな時、唇に感じた柔らかい感触。
イキナリの事で頭が理解するのに少し時間がかかった。
でも、私の顔はしっかりと熱を帯びていた。


ゆっくりと唇が離れていく。

目を開けると、さっきは見えなかった孝介の顔が、月明かりで少しだけ見えた。
その表情は、野球をしている時と同じで、真剣そのものだった。

ふと、握られていた右手に目を落とす。
すると、薬指にキラリと光るリングがあった。


「これって…」


「結婚、しよう。俺が18になるまでの予約。」


表情を変えずに、低く、しっかりと言う孝介。
でも、少しだけ、ほんの少しだけ、頬が赤くなっているように見えた。


そして、私の左手の薬指にそっとキスをした。

それは、誓いのキス

いつか、そのキスを君の唇に…
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