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□甘ったるいチョコレート
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「ねぇ巣山。ちょっと相談乗ってくんない?」


3限目終了のチャイムが鳴ると、私は待ってましたとばかりに身を乗り出して、前の席の巣山に話しかける。
巣山は、口には出さないが面倒くさいと目で訴えている。
そんな巣山に気づかないフリをして、私は勝手に話を続ける。


「あのね、栄口…の事なんだけど…。」


と言うと、巣山は更にめんどくさそうな顔をした。


「お前ら上手くいってんじゃん。何か不満でもあんの?」


めんどくさそうにしても、巣山はしっかりと話を聞いてくれる。
そういうところが相談しやすいんだよね、とか考えつつ、今の悩みを話す。


「なんていうかね、私………欲求不満かもしれない。」


「はぁ!!?」


うん、そりゃあそうなるよね。
は?って言いたくなるよね、わかります。

私だって、自分で何言ってんだとは思うけど、本当にそれで悩んでるんだもん。


「とりあえず…欲求不満ってどんなん?」


「えっと…ね、ちゅー…したい。」


ちょっと恥ずかしくなって机に覆いかぶさる。

でも、コレが私の本音。

だって、栄口と付き合ってもう半年になる。
それなのに、キスどころか抱きしめてもらった事も、好きって言ってくれた事だって殆どない。
デートだって、野球部は忙しくて滅多にできない。
クラスは一緒だから毎日話せるし、メールだって忙しくても毎日してくれるけど、私はそんなんじゃ物足りない。
ってか未だにお互い名字で呼んでるって事も気にくわない。



…なんて、本人に言えるわけもなく。

だって、我が儘言って野球に支障が出るのは嫌だ。
私は栄口の野球をしてる姿が大好きだし、他のチームメイトにだって迷惑がかかる。



それでもやっぱり私だって栄口と一緒にいたい、デートしたい。



でもでもやっぱり迷惑をかけたくない、野球に専念して欲しい。



最近は、その2つの想いがグルグルと頭を回って、夜も眠れない、授業も集中できない、友達と話していても上の空、という始末なのだ。


「でもさ、それ俺に言われても…なんも言えねーよ。」


「ま、まぁそうなんだけどさ。男子の気持ちは男子に聞いた方がわかるかなーって。」


「俺は栄口の気持ちなんてわかんねーよ。」


「やっぱそうだよねぇ〜。」


私がハァッと溜息をついてまた机に顔を伏せると、巣山が思い出したように口を開いた。


「そういえばさ、お前バレンタインはどうすんの?」


「え、バレンタイン?モチロン栄口にあげるけど。」


「そうじゃなくて。14日は部活無いって聞いてねぇのか?」


「へ?何それ、聞いてない!」


「んじゃ、その日にでも誘ってみればいいだろ。」


「う、うん。教えてくれてありがとー。」


「おー、頑張れよ。」


「うん、頑張る…。」


そこまで会話したところで、4限目開始のチャイムが鳴る。

私は、授業なんてまともに聞かずに(いつも聞いてないけどね)、バレンタインの日の事を考えていた。

14日は一緒に過ごせるという嬉しい気持ち半分と、久しぶりのデートで失敗しないか、ましてや誘いを断られないかという不安な気持ちが半分。


でも、折角のチャンスを逃したりするもんか!


何が何でもバレンタインは栄口と一緒に過ごすんだ。
そう心に固く決意した。




そんなことを一人で考えていたら、気づくと4限目は終わっていた。

いつも通りお弁当を片手に栄口の席へと向かう。
よし、デートに誘うぞ!


「栄口!あのね、14日なんだけど、」


「あ、その日さ、部活休みなんだけど久しぶりにどっか出かけない?」


「えっ、あ、いいの?」


「勿論!…もしかして予定ある?」


「ううん、全然!私もね、今誘おうとしてたの!」


「そっか。はは、俺達考えてる事一緒だね。」


誘う気満々だったのに先に誘われるという不意打ちをされて思わず怯んでしまった。
でも、栄口がいつもの笑顔で笑うから、私も笑顔になる。
多分、この笑顔を見せられて惚れない女の子なんていないんだろうなーなんて考えて、その笑顔が自分だけに向けられている事に一人で勝手に嬉しくなる。


「栄口のために頑張ってチョコ作るから、期待しててね!」


「楽しみにしてるよ。」


優しく笑ってそう言われて、私は更にヤル気が増した。
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