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□しみる
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西浦高校野球部部室。
今、この部屋には俺しかいない。
その筈なのに…
「うー、う゛ぅ〜」
俺以外誰もいない筈の部室から、なにやら不気味な声らしき物が聞こえる。
そう、俺以外の誰かがいる。
――…幽霊、とか?もしそうだったら、とりあえず即行ドア閉めて帰るか。
「う゛ーっ、う゛ぁー」
さっきよりも苦しそうな声が、不気味に部室に響く。
――……。幽霊、そんな苦しいならさっさと成仏しろよ。
緊張の所為か少し汗ばんだ手でドアの取っ手を握り、勢いよくドアを開く。
ガチャッ!!
「う゛〜…へ?」
「………」
「………み、みーたーなー!?」
「恐くねぇよバカ。」
へ?と間抜けな声を出したやつは、野球部のマネジの名前。で、一応俺の彼女。
さっきまで幽霊だと思っていた自分が情けない。っつーか恥ずい。
「お前、何やってんの。」
「いや〜それはそのぉ…ね?」
「ね?ってなんだよ。わかんねぇっつの。」
言いにくいのか名前は俯いたまま…って、は!?なんでコイツ泣いてんだ!?
俺は名前の大きな瞳から零れ落ちる大粒の涙を見て、慌てて駆け寄る。
「おい、どうしたんだよ。どっか痛ぇのか?」
「……目、」
「め?」
しばらくして、名前が口を開く。
「…目薬、しみるぅ〜!!!」
――…はぁ!?何だよ、それ!
またもやさっきまで心配していた自分が恥ずかしくなった。
「ふざけんな、このバカ名前っ!!」
俺の怒りが爆発した。
「バカって何よ、バカって!」
「そのまんまの意味だ、バカ。」
「あ、また言った!!隆也のアホ!」
「はぁ!?」
その後、しばらく2人の喧嘩は続いた。
そして、その喧嘩の一部始終を泉がこっそり録音してることを知るのは、もう少し先のこと。
しみる
〜翌日〜
(おーい、バカップル!!仲直りしたか?)
(…っ!田島君、なんで知って…!?)