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□青い空と揺れる髪
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…久しぶりだな。

何がって、こいつと一緒に帰るのが。

こいつとは、野球部のマネジで俺の彼女の苗字名前だ。
俺はいつも野球部のみんなと一緒に帰るから、名前と二人で帰るのは久しぶりだ。


俺の隣で、最近少し伸びてきた綺麗な茶髪を揺らしながら楽しそうに歩く名前。

繋いだ手から名前の体温が伝わって落ち着く。


「ねぇ隆也。私ね、今願掛けしてるの。」


唐突に名前が口を開く。


「髪を伸ばしてね、隆也達が甲子園にいけますようにって。」


名前は嬉しそうに言って俺から手を放し、少し前を歩き始めた。


「…隆也、私の髪、結ってくれる?」


「はあ?」


イキナリ言われた言葉に驚きを隠せない俺は、思わず間抜けな声で聞き返してしまった。

すると、クルリと後ろを振り向き、


「だから、私の髪、結ってくれる?」


もう1度さっきの言葉を強く言い放った。

モチロン俺は、戸惑う事しかできない。

だって、女子の髪なんて結ったことがあるわけない。
突然結えって言われたって結い方だって知らないし、結った後に変とか文句を言われも困る。


「俺結い方なんて知らねぇけど?」


「別にいいよ、どんなんでも。あ、でも私の長さだったら丁度ポニーテールが結えるくらいかなっ」


ニコッと笑う名前。
こいつ、遠まわしに「ポニーテールを結え」と訴えてやがる。


「変になっても文句言うんじゃねぇぞ。」


何言ってもどうせ最後は結わされることになるんだ。
わざわざ反抗する意味はない。


黄色のゴムを渡され、ゆっくりと名前の髪に触れる。
夏だというのにサラサラで甘い香りがする髪が、すごく心地いい。

とりあえず髪を上のほうで纏める。
できるだけこの綺麗な髪を傷つけないように、そっと、そっと…


「できたぞ。」


やっとの事で結い終わった。

思ったよりも上手くいった気がして、安堵の溜息をつく。


「うわっ、隆也って髪結うの上手いね!」


鏡を見ながら騒いでる名前。
そんな名前を見てると、自然と頬が緩む。
俺って、相当こいつに惚れてんな、なんて、今更だけど改めて実感した。


すると、今まで騒いでいた名前がイキナリ静かになったと思うと、俺の方を見て、いつもより真剣な目をして微笑みながら言った。



「隆也、私を甲子園に連れてって」



夏の晴れた空が、いつも以上に青く綺麗に見えた。

青い空と揺れる髪

(……俺はたっちゃんじゃねぇぞ。)

(何それ、冷めてるー!!)

(…言われなくても、ぜってぇ連れてってやるよ。)
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