short

□恋におちた
1ページ/2ページ

6時間目のLHR。今日は席替えをするらしい。

正直、俺は席なんてどこでもいい。
そりゃ仲良いやつと席が近いといろいろ楽だけど、そこまで重要な事でもないと思う。

でも女子からすると重要な事らしい。
席替えのたびに毎回キャーキャー騒いでる。
まぁ、騒いでるのは女子だけではないけど(水谷とか水谷とか水谷とか)。

あーあ、早く終わんねーかな。
そう思い大きな欠伸と伸びをする。

すると、後ろから水谷が楽しそうに話しかけてきた。


「俺、後らへんの窓側の席がいいな〜。花井はどの辺がいい?」


「あー、俺は別にどこでもいいよ。」


「えー、なんで!」


「別に席なんてどこでも同じだろ。席替えくらいで騒ぎすぎだっつの。」


俺が大きく息を漏らすと、つまんねーと文句を言って阿部の方に歩いていった。
きっと阿部も俺と同じ質問されんだろうな。



暫くすると、俺がくじを引く番が来た。
さっさと席決めて落ち着きたい。

箱の中をガサッと漁って、適当に紙を一枚取り出す。
えっと、俺の番号は…


「あーーー!!!」


突然、水谷が俺の後ろから顔を出したかと思うと大声を上げた。


「なんだよ、うっせーな!」


「ごめんごめん。でも花井の席、一番後ろの窓側じゃん!いいな〜。」


なんだ、そんな事か。
それぐらいで大声上げるなよ、大袈裟だな。


俺と代わって、としつこく縋ってくる水谷を軽くあしらって、決まった席へと足を運ぶ。



そして、俺がイスを引いて腰掛けた時。


「あ、花井君が隣?」


隣の席に座る女子が話しかけてきた。


…あれ、コイツ誰だっけ?


クラスの女子となんて篠岡以外とは殆ど話さない俺は、笑顔で話しかけてくる女子の名前がわからない。

顔は…なんとなくわかるんだ。
一応クラスメイトだから、顔ぐらいは見覚えある。
でも、話したのは初めてだし、名前を呼ばれたのも初めてで、まず相手が自分の名前を知っていた事にビックリした。
俺は覚えてないのに…と、罪悪感が募る。

俺はとりあえず「おぉ」とだけ答えておいた。
せっかく話しかけてくれたのに、なんだか素っ気ない態度をとってしまった。
失礼な事したかな、と思い、チラッと彼女のほうを見る。
すると、彼女が手に持っている教科書が目に入った。
そこには、キレイな字で「苗字 名前」と書かれていた。
そういえば、苗字…だった気がする。

どうしようか。俺の方から話しかけるべきなのか。


「花井君、どうかした?」


「え、や、その・・・」


俺の視線に気づいた苗字が首を傾げて不思議そうに聞いてきた。
俺は、ギクッとして思わず三橋みたいにキョドってしまった。


「あは、花井君おもしろいね。」


そう言われて恥ずかしくなり、俺はとにかく話しを逸らした。


「あ、えっと…苗字、だよな?」


「うん、そうだよ。覚えててくれたんだ。嬉しいな。」


話しを逸らすためにとっさに言った言葉に、予想とは全く違う反応が返ってきたことにビックリした。
名前を覚えてただけなのに、こんなに満面の笑顔で喜ばれるとは思いもしなかった。

覚えてたってか、今知ったんだけど…なんて、とても言えない。
さっきよりも更に罪悪感が増した。


俺がそんな事を考えていると、目の前にイキナリ細くて白いキレイな手が差し出された。


「これからよろしくね!花井君。」


さっき以上の笑顔でそう言った彼女にドキッとしたのは、誰にも秘密だ。

恋におちた

(席替えも、悪くないかもな)
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ