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□HAPPY BIRTHDAY!
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“ねぇ、今日って高瀬先輩の誕生日なんだって。”
“えーマジで?うち祝いに言っちゃおっかなーなんて。”
私が教室でお昼を食べていた時、後ろの席の女の子二人の楽しそうな会話が耳に入った。
普段なら聞き逃して記憶に残らないような事だけど、ある人物の名前を聞いた瞬間、私の神経は耳に集中する。
“ねぇ、今日って高瀬先輩の誕生日なんだって。”
うそ、高瀬先輩の誕生日?私、何も用意してない。
今から買うって言っても、お金だってお昼のパンとジュースとお菓子で殆ど残ってないし…。
しかも、高瀬先輩って何貰えば喜ぶのか、さっぱりわかんない。どうしよう。
「ちょっと名前、聞いてんの?」
「え、あ、ごめん。聞いてなかったかも…。」
「かも、じゃなくて聞いてなかったでしょ。」
「…ごめんなさい。」
頭でグルグル考えていたら、お昼を一緒に食べていた友達に不機嫌そうな声で指摘された。
でも友達には悪いけど、今はゆっくり話を聞いてる余裕はない。
高瀬先輩の誕生日。つまりは、私の密かに思いを寄せる人の、年に1回の誕生日なのだ。
(事前に誕生日聞いとくんだった…。)
誕生日当日になって初めて知るなんて最悪だ。
とりあえず、今残っているお金で何か買えないか考えてみる。
1円玉が6枚に、5円玉が1枚、10円玉が5枚で、50円玉と100円玉が1枚…全財産211円。211円で買える物、っていったら私お菓子しか思いつかないんだけど。
仕方ないから、売店でお菓子を買ってプレゼントしよう。何もないよりはマシだよね。
まだ何か話している友達にちょっと売店行って来る、とだけ告げて走りだす。
友達には悪いとは思ったけど、それどころじゃない。
早くしないと、昼休み終わっちゃう!
売店に行って、私の今の全財産で買える物を選ぶ。
高瀬先輩って、どんなお菓子が好きなのかな。
甘いものは平気かな。それより、お菓子とか食べるかな。
いろいろ不安だったけど、買うしかなかった私は、悩みに悩んでジャガビーとブラックサンダーを購入。もろ私の好みだけど。
昼休み終了まであと7分。
片手に今買ったお菓子を持って、ダッシュで2年生の教室まで向かう。
たくさんの人をすり抜けて、ようやく「2年4組」と書かれたプレートのある教室の前に着いた。
今になって気づいた事なんだけど、みんなが私をジロジロと見ている。
そりゃそうだ。1年生が2年生の教室にいるって滅多にないもんね。
浴びせられる視線に一瞬戸惑ったけど、ココまで来たら引き返せない。
廊下から教室の中を覗いて、高瀬先輩の姿を探す。
すると、窓際の席で誰かと話している大好きな高瀬先輩の後姿を見つけた。
「た、高瀬先輩!」
思い切って名前を呼ぶ。
高瀬先輩はこっちを振り向いて吃驚したような顔をすると、ゆっくりとこっちに向かってきた。
「名前、どうした?」
「あ、あの、高瀬先輩が誕生日って聞いて…私、知らなくて、さっき売店で急いで買ってきた、から、大した物じゃない、ですけど…。」
私が少し口ごもりながら小さな袋を目の前に突き出す。
すると、高瀬先輩はまた吃驚したような顔をしてから、私の顔を覗き込む。
急に見つめられて顔に熱が集まるのがわかる。
高瀬先輩は、そんな私の顔を見て優しく微笑むと、私の手から袋を受け取る。
その顔にドキッとして思わず目を逸らしてしまった。
「プレゼントどうも。で、俺に言う事あるんだろ?」
「え?……あ、えっと、高瀬先輩、誕生日おめでとうございます!」
多分顔は真っ赤だったけど、できる限り精一杯の笑顔でそう言うと、高瀬先輩も眩しいくらいにニッと笑って頭を撫でてくれた。
HAPPY BIRTHDAY!
生まれてきてくれて、ありがとう。