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□こんな素敵な毎日が
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私と悠は中学3年間クラスが一緒で、席も何度か隣になったことがあったりして、私は自分でも気づかない間に悠の笑顔に惹かれていた。
その事に気づいたのは中学卒業を間近に控えた3月の初め頃。
自分の気持ちに気づいてから、いてもたってもいられなくなり思い切って告白してみた。
自信があったわけではないけど、高校に入るともう会えないかもしれない。
そう考えると、伝えないで終わるのは嫌だった。
「私は田島君のことがずっと前から大好きでした。」
緊張で少し声が震えていた。
告白すると決心したものの、このたった一言を言うだけですごくドキドキして、今にも心臓が張り裂けそうだった。
悠からの返事を待つ時間が自棄に長く感じて、一刻も早くこのドキドキから開放されたい気分だった。
誰もいない静かで少し寒い教室に、窓から風の入り込むわずかな音が聞こえる。
そして、しばらく間が空いてようやく彼が言葉を発する。
「オレも!ずっと前からお前が好きだった!絶対に幸せにするからオレと付き合ってください!」
いつものように、いや、いつも以上に眩しい笑顔の悠が発したその言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
その数秒後、私は涙が溢れてとまらなかった。
突然泣き始めた私に、訳がわからなく困惑した顔の悠が近づいてきて、私の涙を指で拭ってくれた。
それでも私の嬉し涙はなかなか止まらなかった。
その次の日、早速一緒に登校する事にした私達。
家が反対方向だから待ち合わせしようと言ったのに、悠は迎えに行くと言って聞かなかった。
理由を聞いたら、
「そっちの方が長く一緒にいられるだろっ」と言い、ニカッと笑った。
悠の発する一言一言に、私の心臓はドキドキと大きく音を立てる。
約束した時間ピッタリに家のインターホンがなる。
準備万端で待っていた私は、勢いよくドアを開けた。
すると悠が「よっ!」と、私に笑顔を向けて挨拶する。
それだけでなんだか幸せな気持ちになって、
私も笑顔で「おはよ」って言った。
もう少しで春、と言ってもやっぱりまだ寒い。
私が冷えた手を擦りながら歩いていると、悠が「はい」と言って手を私の前に突き出す。
少し緊張しながらも悠の手に自分の手をそっと重ねると、キュッと優しく握ってくれた。
私も悠の手を握り返す。
悠の手はすごく温かくて自分の顔が少し赤くなったのを感じた。
すると、赤くなった私の顔を見て、悠はニシシッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
会話は、付き合う前と全く変わらないような他愛もない話ばかり。
最近あった面白い話とか、昨日のテレビの話とか、悠の好きな野球の話とか。
いつもと同じことを話しているのにいつも以上に特別な気がするのは、多分繋がれた私の左手と悠の右手の所為。
大好きな悠の大好きな手に、私の手が触れている。
つい昨日のあの瞬間までは全く予想もつかなかった現実。
でも、夢じゃないんだ。
いつもと変わらない悠は確かに私の隣にいる。
大好きな元気な声で私の名前を呼んでくれる。
大好きな眩しい笑顔で挨拶してくれる。
大好きな温かい手で手を繋いでくれる。
それがとても嬉しく思えて、私はまた思わず泣きそうになった。
こんな素敵な毎日が
一生続けばいいなぁと心の底から願う。
(悠!早くしないと朝練に遅刻しちゃうよ!)
(いーじゃん、オレもっと一緒にいたいー!)