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□両想い
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朝、自分の席で携帯の液晶画面を見つめる。


「苗字、さっきから何ニヤニヤしてんの?」


前から声が聞こえて、視線を移す。
そこには朝練を終えたらしい水谷君がいつもみたいにへらへらした顔で立っていた。

私、にやけてた?と返したけど、自分が締まりのない顔をしていたのは一応自分でも分かっていた。
というか、今も口元は緩みっぱなしだ。


「もしかして、花井?」


「ふふ、水谷くん鋭い!今、梓君とメールしてたの」


「メール?どうせ今教室来るのに」


水谷君が不思議そうに少しだけ首をかしげて聞いてくる。
多分これが普通の反応なんだろうと思う。


「教室に来るまで待てないの。早く梓君にお疲れって言いたくて」


綻ぶ顔は無理に戻そうとしてもなかなか戻らなくて。
やかましいくらいにニコニコしながら答える私を見て水谷くんは苦笑する。


「ほんとにお前ら付き合ってないんだよな…」


「うん、付き合ってない」


私がなんの躊躇いもなく即答すると、水谷君は腑に落ちないような顔をして自分の席に戻っていった。




自分ではよくわからないのだけれど、周りの人は私と梓君を誰がどう見ても付き合ってるようにしか見えないと言う。
梓君とそういう関係に間違われるのは私にとっては嬉しい事だから特に気にしてはいないけど。



開いたままだった携帯をパタンと閉じると、丁度教室の入り口から梓君が入ってくるのが視界に入った。
梓君を見ると、一気に元気になれる気がする。
メールとかでも十分に嬉しいんだけど、会えたときの嬉しさの方が上だ。

早く直接言葉を交わしたくて、小走りで梓君の元へと駆けていく。


「梓君、おはよう!」


「おぉ、さっきのメールありがとな」


「いえいえ。今日もお疲れ様」


こんな何気ないちょっとした会話が、すごく幸せな時間に感じる。
やっぱり、私の顔は自然と笑顔になれる。

そんな会話をしていると、近くにいた私の友達がからかってきた。


「相変らずラブラブですねぇ新婚さん」


変な笑みを浮かべながら言うもんだから、私も梓君も真っ赤になる。
でもこれはほぼ毎日の事だ。
毎日同じように誰かしらにからかわれて、毎日同じ反応をして。
それが既に日常になりつつある。


「違うってば!いつも言ってるのに。ね、梓君」


この私のセリフもほぼ毎回同じだ。
もう何回言っただろうか。
いつも通りなら私がここで振り返って、赤い顔で苦笑した梓君と目が合うんだ。

でも、今日は違った。
真っ赤な梓君と目が合うところはいつもと同じ。
でもその表情はいつもとは違って、どこか深刻な表情をしていた。
そして、なぜかふっと視線を逸らす梓君。


「俺と付き合ってるとか勘違いされて、名前は嫌じゃねぇの?」


ボソッと呟かれたその言葉に、私は目を見開いて驚いた。


「嫌じゃないよ?」


そこで一度言葉を区切って間を置く。
次に紡ぐ言葉を考えるとどうしても心拍数が速くなって。
思わず息を呑んだ。


「私は梓君が好きだから」


その瞬間、クラス中がどっと沸いた。拍手喝采。

…なんでクラスの全員が私の告白に耳を済ませてるんでしょうか。

しかも、まだ私は梓君からの返事をもらってない。
そう思って目の前に立つ梓君を見ると、今までに見たことのないくらいに真っ赤な顔をしていたから、私もつられて真っ赤になった。


両想い
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