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□See you again
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今日は快晴。野球日和だ。

思えば、あの日も今日のような晴れだった。

まるで俺達をバカにしてるような、晴れすぎてムカつく空。


アイツが、死んだってのに…。




「また、一緒に来ようね。絶対だよ。」


景色が綺麗な場所がある、と言われて一緒に行った場所で、無邪気に笑ってそう言う愛しすぎる存在。


「私、ここで皆のこと応援してるね。」


「はは、応援するなら球場に来いよな。」


そう言うと、少し悲しそうな顔をして、そうだね、と言った。


「うん、私、応援してるから。だから…次の試合も、頑張ってね。絶対、勝ってね…。」


俺に向かって微笑むお前。
その笑顔は、どこか寂しそうだった。

一瞬顔を伏せたかと思うと、また俺の目を見て、今度はいつもの無邪気な笑顔でにこりと笑った。


それが、合図だったんだ。


なんで、あの時の俺は気づかなかったんだろう。
いつも一緒にいたのに。一番近くで笑いあってたのに。
俺は、少しも気づけなかった。



試合前日の夜、それは突然の事だった。


「泉君?落ち着いて聞いてね……名前が、死んだの…。」


アイツの親からの電話だった。

アイツが死んだと聞いたときの感覚は、今でもハッキリと覚えている。
忘れられない、あの心と頭が空っぽになる感覚。


アイツは、本当なら入院していなければいけなかったらしい。
入院しなければ、3日前が限界だろうと言われていた。
それでもアイツは、俺に心配をかけたくない、と言い入院を拒んだそうだ。
そして、俺と少しでも長くいたいと言って、予定より3日間も長く生きた。


なんで…なんで…、アイツはそんなこと一言も言ってなかったじゃないか。
辛いのに、いつも笑顔で俺の隣にいてくれて、俺の事、一番傍で応援してくれてたアイツが……


もう、いない。


あいつのいない世界で生きていく気力すら、ない。



そんな時、ふと、あの時の愛しいアイツの声がした。


『次の試合も、頑張ってね。絶対、勝ってね…。』


今まで何故か出なかった涙が、堰を切ったように溢れだし、止まらなくなった。

そうだ、俺はアイツに何もしてあげられなかった。
アイツは俺の事、あんなに応援してくれたのに、俺は、気づいてあげる事すらできなかった。


なら、せめて。


『絶対、勝ってね…。』


生きているうちに何もしてあげられなかったなら、せめて、勝って、笑顔でアイツに。
勝たなきゃいけないんだ。

それが、今はもういないアイツへ、俺が唯一してやれること…。




翌日の試合、見事俺達は10対1のコールド勝ち。

それでも、いつもなら隣で「やったね」と言って笑うアイツがいない。


「俺、勝ったぜ。約束通り、勝った……だから、…会いてぇ…っ…」


居るはずがないのに、あの時の場所で呟いた。

笑顔のつもりだったのに、また、涙が止まらない。

俺の声は、聞こえているだろうか。


涙が止まらないままに歩き出そうとした時、誰かに背中を押された気がした。



そして、聞こえた、俺の大好きな声。




『やったね、泉!』




声の聞こえた方を振り返るが、やはりその場所にアイツはいなかった。


ふと地面を見ると、小さなお守りが一つ。


中には、アイツの字で、こう書かれていた…。



『泉、西浦ーぜ、絶対優勝!』



See you again



今まで、ありがとう。
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