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□コイツは俺のもの
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朝目が覚めると、なんだかいつもより肌寒い空気に、体が一瞬震えた気がした。
布団から出たくないと思いつつも、学校に行かなきゃいけないからゆっくりと体を動かす。
窓から差し込む白い光に不意に目を向けた。すると、外にいつもの朝とは違う風景が見えた。


「うわ、雪…」


外は、白い雪がパラパラと降っていて、思わず声を漏らしてしまった。
雪は既に辺りを少しずつ白色に変えていて、一晩でよくこんな降ったもんだと感心したと同時に、溜息をついた。
雪はそんなに好きじゃない。

暫く外を見ていたが、枕元の時計をちらっと見て、学校へ行くための準備を始めた。





学校付近の雪道を一人でゆっくり歩く。
家を出る頃には雪はもう止んでいたから、マフラーだけ巻いて出てきた。
はぁっと息を吐くと、雪のように白いそれは、見えたと思ったらすぐに消えた。

一瞬、強い風が吹いて、寒さが増した。
やっぱり何か羽織ってくるべきだったか、なんて少し後悔していると、イキナリ後ろから元気な声がして背中を勢いよく叩かれた。


「花井っおはよー!」


「いって!なんだ名前か。今日は早ぇな。」


「雪降ってたから早く出た方がいいかなーって。でも意外と平気だったね。」



寒さで若干麻痺した背中を叩かれたから、結構痛いのだが、そんなことは知ったこっちゃないという感じに名前は笑っている。
こんな小さい体なクセに、力はあるんだな。

エヘヘと笑う名前は、どうにも憎めないやつで、なんつーか…この気の抜けた笑顔を見てると全部、まーいっかって思っちまうっつーか。
とりあえず、何されても許してしまうって話で。
俺は名前に対して甘いという自覚はあるけれど、それは俺だけじゃない。
男だろうと女だろうと、この笑顔にはお手上げらしい。
ただ、俺と他の男とで違うとこは、俺は名前を妹みたいなやつとしか思ってない。
どうも名前を恋愛対称として見るのは、俺には無理がある。
でも、どうやら名前は相当モテるらしい。
よくクラスのやつらが何組の誰が可愛いとかって話してるのを聞いてると、名前の名前がほぼ100パーセントの確率で挙がってたりする。
告白されたって噂も少なくはない。

俺にはよく分からないが、そんな感じらしい。


「ちょっと花井、聞いてる?」


「え、あ、わりぃ。」


「もー、ちゃんと聞いてよ!」


いろいろ考えてる内に話を流してしまってた俺に、名前が拗ねた顔をしてわざとらしくそっぽを向いた。
その顔が面白くて、俺は思わず笑ってしまった。


「な、なんで笑うの!」


「あーゴメンゴメン」


「謝る気ないでしょ……。だから花井はぁ、っぅえ!?」


文句を言いながら横を歩く名前が急に視界から消えたと同時に変な声を発した。


「…っぶねぇ、何やってんだよお前…」


俺が咄嗟に転びそうになった名前の細い腕を引っ張った為、なんとか転ばずに済んだようだ。
俺まで心臓が止まりそうになった。
名前はビックリした表情のまま固まってる。


「あ、ありがとう。なんかこの辺滑るね…。」


「おう、気をつけろよ」


名前の腕を引き上げて立たせる。
転ばなかったとはいえ、俺も咄嗟に転ばせまいと反射で腕を引いてしまった為、腕を痛めてるかもしれない。


「腕痛くしなかったか?」


俺が聞くと、少し腕を回して確認する名前。


「うん、痛くないよ」


そう言って名前が笑顔で答えたとほぼ同時に、後から聞きなれたでかい声がした。


「なーにやってんの!」


「た、田島!?」


田島が名前の首に後から腕を巻きつける。
コイツも名前の事が好きだ。


「二人で何してんのー」


「転びそうになったとこ助けてもらった!」


笑顔で答える名前に、同じく笑顔の田島。
なんだかこいつ等には同じ様なものを感じる。
裏のない笑顔とか、人を疑わない素直なところとか。
田島の笑顔に癒された事は一度もないけどな。




そのまま学校へ向かう俺と田島と名前の3人。
田島は何かあればすぐに名前にくっつこうとして正直疲れるものがあるが、本人は嫌がってないし気にしない方がいいのか。

校門付近に来ると、見慣れた後姿を見つけた。
俺がその姿を見つけて、あっと思うよりも早く、田島がいつも通りのでかい声でそいつの名前を呼んだ。


「あ、泉だ!いーずみー!」


その付近にいた生徒達はもちろんビックリしたような顔でこちらを振り返った。
一気に注目を浴びる俺達3人。
声でけぇ!と田島に注意しようとしたが、前から名前を呼ばれた当の本人、泉が呆れ顔で近づいてくるのが見えたから止めた。
多分、俺が言わなくても泉に殴られると思ったから。


「お前、声でけぇんだよ!」


「いでっ!」


予想的中。田島の頭はゴンッと良い音を立てた。
…予想的中、ではなかったかもしれない。予想してたよりも痛そうだ。

殴られたところを涙目で擦りながら講義する田島から目線を横にずらした泉は、さっきまでの呆れ顔から打って変わって、優しい表情になった。


「よっ名前」


「おはよー泉」


泉が俺達には一度たりとも向けてくれた事のない優しい表情で名前の頭を撫でる。
NAME2##はそれを気持ちよさそうに受け止める。

…二人の世界って感じだな。
普通に見ればこいつ等付き合ってんじゃねーのって思うような光景だった。

泉も名前が好きで、見てわかる通り、名前にだけは驚くくらい優しくなる。

なんだか置いてけぼりを食らった気分になった俺は呆然と立っていた。
が、田島に話しかけられてハッとする。


「なぁ花井、泉ってぜってー二重人格だよな」


仲良さそうに話している泉と名前を不満そうに見ている田島は、未だに殴られた頭が痛いらしく、右手で頭を押さえていた。


「二重人格…っつか、名前の前だと気持ち悪ぃくらい優しくなるよな…」


「だよな!!…ってアレ?泉と名前がいねぇ!」


田島に言われてさっきまで二人がいたはずの場所に目をやると、泉と名前は既にその場から消えていた。


「あー!花井!アレ!」


再び田島が叫ぶ。
その指差すほうを見ると、そこには目を疑うような光景があった。


「なんで泉と名前が手繋いでんだよっ花井!!」


「し、知るかよ!俺に聞くな!」


…あの二人って、付き合ってんのか…?

俺の頭はその疑問で占拠される。多分、田島も。


俺がその場に呆然と立ち尽くし、田島が横で騒いでると、泉は後ろを振り返ってニヤッと笑った。

まるで…


コイツは俺のもの


とでも言うように。


(泉?なんで笑ってんの?)

(いや、なんでもねぇ)


(なんだよ今の泉の顔!ムカつくー!)

(俺に当たるんじゃねぇ!)
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