無双×短編

□懐かしいキスをする
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月明かりに照らされた縁側で杯を片手に一人の男が座っていた。


はらり ひらり


風に攫われた一枚の桜の花びらが音も無く酒の上に落ちる。


(・・・また、この季節がきたか。)


男________清正は目を細めてそれを見ると一気に口に含んだ。
甘い酒の味が広がる。


(アイツが消えてからもう3年も経つのか。)


庭先に植えてある一本の大きな桜の木を見る。
目を閉じれば今にも聴こえてきそうな彼女の声。
桜が好きだと笑っていつもあの木の下から桜を眺めていた。


(これで、良かったんだ。)


光に包まれ元といた世界へと帰っていった彼女。
その瞳に涙を溜め、自分へと伸ばした小さな手を清正は掴めなかった。
元の世界には彼女の家族がいる。
家族の大切さ、愛しさを知っている清正にはそんな彼女の手を自分の我が儘ために掴むことなどできなかった。



たとえどんなに彼女を愛していたとしても



清正は小さく溜め息をつき立ち上がると寝所へと向かうために庭を背にした。
すると風の音と共に微かだが清正の耳に懐かしい響きが届いた。


____________清正さん



自分の耳を疑う。
なぜならそれは光と共に消えていった彼女のものだから。
聞き間違えかと思うと再び同じ声が聞こえた。
心臓が壊れそうなくらいにドキドキと脈を打っている。
震える身体を必死に動かし清正は庭を振り返った。
目の前に広がる景色に息をするのも忘れた。



白い光に包まれた桜の木。
その前で涙を浮かべながら微笑む愛しい面影。



「清正さんに会いたくて帰ってきちゃいました。」



照れたように笑う彼女に清正の胸に溜め込まれていた想いが溢れ出す。
気づけば身体は勝手に動きその腕に彼女を抱きしめた。
強く、でも壊れてしまわないように優しく、
抱きしめれば鼻孔いっぱいに広がる彼女の甘い髪の香り。


「・・・この馬鹿っ!」
「馬鹿で結構です。また、清正さんに会えたんだから。」


小さく笑う彼女にどうしようもない愛しさが溢れた。
そっと彼女の顎を持ち上げ見つめ合う。
清正の自分を見つめる優しい瞳に涙がこぼれ、吸い込まれそうになる。
そしてどちらともなく唇を重ね合った。



懐 か し い キ ス を し よ う



(貴方と一緒にいられるなら時空だって越えられる)


_________________

20111125
無双夢企画サイト様 Chloe 提出作品

トリップ主人公の切甘夢でしたがいかがでしたでしょうか?
書いていてとても楽しかったです。

素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!



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