Persephone(無印)続き
□Mission43
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ようやく理解した、支部長には端末を使うという考えがないらしい。
オラクル細胞の研究は常に最前線を走っているだろうに、私が生まれる前からあったこのツールを使いこなすスキルは欠いているらしかった。
コミュ障かと脳内で毒づきながら、慣れてしまった廊下を歩く。
いつも通りノックをして部屋に入れば、支部長はこちらに背を向けて立っていた。
「やぁ、よく来たね」
決していい顔はしていないだろう私の顔を見て、振り返った支部長はまず第一にアーク計画の助力に関する礼を示した。
私が近付いていっても、支部長は自分の計画への自信を示すように後ずさる事なくそこに立っている
「君は何も言わないのだな
サクヤ君達から
連絡くらい来ているのだろう?」
「価値観は人それぞれ
隠し事の1つや2つ誰にでもあるでしょう」
「…………………良くできた人間だな君は
その若さで全てを悟っているかのようだ」
支部長は何も言い訳もせず、いつも通りの回りくどい話し方で私を見、その目が細められた。
「理解してほしい
アーク計画こそが地球再生と人類の保存を両立させる唯一の方法なのだ」
例えば、と支部長は荒れ狂う海に浮かぶ1枚の板が描かれた壁にかけられている絵に目をやり話し出す。
「船が沈没し、君や乗員が荒れ狂う海に投げたされたとしよう。嵐の海には、たった1枚の板が浮かんでいる。
どう考えてもその板には、2人が捕まれば沈んでしまう
さて、君はどうするかね
他の者を押し退けて1人助かるか
それとも自分が犠牲になるタイプかね」
くだらない、そうとしか思わなかった。
そんなこと、口ではどうとでも言えるし、その時になってみなければ分からないだろうし、選択肢が2つしかないというのもいただけない。
「なら私は板と人と一緒に泳いで
もっと大きな板を探します」
「…君といい、リンドウ君といい
実に残念だよ」
残念とかいいながら、その表情からはちっともそんな様子は感じられない。
「アイーシャはどうして
貴方を選んだんでしょうね」
そこで初めて支部長の表情が変わったことに、私はクスリと笑ってやる。
「きっと、放っておけなかったんですね、危なっかしくて
私が傍にいてあげなくちゃって」
「どういう意味だ」
その表情はいつになく険しく、眉をつり上げている。
「今は亡き友人に代わって
私は貴方を止めますよ」
「お前は……………」
まぁソーマより若い私がアイーシャの友人であると話しても、本来ならあり得ない事だろう。
「初めて会った時の貴方は、私に近づこうとするアイーシャを必死に制止していましたね
当時の2人はまだ若かったけれど」
信じられないといった表情で空いたその形の良い口から、アラガミとしての私の名がこぼれ落ちるのが聞こえた。
「それと、ソーマの事ですが
愛情は分かる形で表現してあげないと、いつか怒られますよ」
アイーシャに、と付け加えて私は笑う。
彼女ならきっと怒らないだろう、怒ったとしても笑って、最後には彼を労うに違いない。
「仕事はちゃんとこなしますので
ご安心を。失礼します」
視線を背中で感じながら、私は扉を潜って部屋を出た。