「おお振り」×「ダイヤのA」

□挑戦!その7
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「三橋って、実はすごくカッコいいよな。」
沢村は思わず心の内を漏らす。
だがあっさりと「カッコいい、のは、栄純君、だよ」と返された。

沢村がその「事件」に出くわしたのは偶然だった。
今日は御幸、三橋、阿部と外で食事をする予定。
そして店は御幸たちが所属する球団事務所の近くのダイニングバーだ。
ここは4人の中で一番大食漢の三橋、お気に入りの店。
沢村も何度か行ったことがあり、味も量も折り紙付きだ。

その道すがら、御幸たちの球団事務所の前を通りかかる。
今日は三橋も御幸も呼ばれているという話だが、2人とも中にいるのだろうか?
そんなことを思いながら通り過ぎたところで「あれ?」」と足を止めた。
見覚えのある、茶色ががったフワフワの髪。
三橋が誰かと立ち話をしているようだ。

近づいていくと、相手が誰だかもわかった。
三橋たちと同じ球団の先輩投手だ。
話し込んでいるなら、邪魔をしない方が良いだろう。
どうせ三橋とは後で会うのだし、そのまま通り過ぎよう。
そう思ったところで、沢村はその男が激しい口調で捲し立てるのを聞いた。

「いいよな。お前は」
「運がよくって」
「自分の方が上だなんて、思うなよ」

断片的に聞こえたそれは、どうにも険悪だ。
沢村はわざと歩調を緩めながら、考えた。
これはわかりやすい。
先輩が活躍している後輩を妬んでいるというヤツだ。
チーム事情はあるだろうし、沢村は完全に部外者ではある。
だけどやはり見過ごせるような状況ではない。

「おい、あんた!」
沢村は三橋の横に立ち、男と対峙した。
三橋は「栄純、君?」と驚いている。
いくら近くで待ち合わせしているとはいえ、沢村の登場は予想外なのだろう。
だが沢村は構うことなく、男を睨みつけた。

「こんな場所でみっともないっすよ。」
沢村はゆっくりと丁寧な言葉を選んだ。
男は「お前には関係ないだろ」と吐き捨てる。
一応同じプロではあり、沢村が誰だかがわかるようだ。

「こいつのせいで、オレは自由契約になったんだ!」
「ハァァ!?何でこいつのせいなんすか!?」
「実力もないのに、守護神なんて呼ばれてるだろ!」
「ちゃんと実績があるから、守護神なんじゃないんすか!?」

男の「自由契約」という叫びに、沢村の心は痛む。
プロ野球選手なら、誰もが恐れる事態なのだから。
だけどそんなのが三橋のせいであるはずがない。
非情だが、男の実力が足りなかっただけの話なのだ。

「いいよな。オトモダチ同士のかばい合いか?いつまでも学生気分かよ。」
「学生気分はお前だろ。こんな子供じみた八つ当たりして。」

怒り心頭に発した沢村は、丁寧な言葉使いもやめた。
言っていることはめちゃくちゃで、まともな話も通じそうにないからだ。
やがて男は怒り狂い、沢村を突き飛ばそうとしてきた。
まったく子供じみた男だと呆れるしかない。
どうしたものか、警察を呼ぶべきか。
迷ったところで御幸が駆け付けてきてくれたのである。

「三橋って、実はすごくカッコいいよな。」
その夜、予定通りの店に落ち着き、程良く酒が回った沢村はそう言った。
あの男のせいで、気分は最悪になった。
それを取り戻すために、ハイペースで飲んだせいで酔っ払い、本音が零れ落ちたのだ。

聞けば、三橋は日頃からあの男によくからまれていたらしい。
だけどまったく相手にしなかったようだ。
あんなムカつく男を軽くいなしていたとは、まさに大人の対応。
そして最後には怒りを見せたが、それも普段の三橋からは想像できない迫力だった。
男の挑発に乗るように怒鳴った沢村に比べ、これまた大人の対応だ。
それらひっくるめて、今日の三橋はひどくカッコよく見える。

「カッコいい、のは、栄純君、だよ!」
三橋はフルフルと首を振ると「オレ、今日、助けてもらった!」と笑う。
やはりハイペースで飲む三橋だが、酒に強いのでいつもとまったく同じだ。
沢村は二カッと笑うと「カッコいいオレたちに乾杯!」とグラスを掲げた。

終わり良ければ、なぁとりあえず良し。
こうして4人の飲み会は大いに盛り上がった。
唯一の沢村の後悔は、飲み過ぎてしまったこと。
途中から盛大に寝てしまい、楽しい宴の最後の方の記憶がないのが無念だった。
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