「おお振り」×「ダイヤのA」

□挑戦!その5
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「いったい!どういうことっすか!」
勢いよく飛び込んできた沢村は、テーブルに1冊の本を叩きつける。
御幸はその剣幕に引きながらも「お前なぁ」と呆れていた。

その日は実に平和だった。
阿部は「実家に顔を出す」と、朝から出かけていた。
沢村は「買い物がある」と外出している。
残された形となった御幸と三橋は、三橋の部屋でランチタイムだ。
2人の前には、近所のコンビニで買った弁当が置かれていた。

「三橋って相変わらず胃袋が丈夫だな。」
御幸は三橋が買ったものを見て、苦笑した。
大盛り牛カルビ弁当とハンバーグ唐揚げ弁当。
ボリュームたっぷり、茶色味が多く、カロリーも高そうだ。
普通に考えれば多過ぎだが、三橋はこのくらいペロリと食べてしまう。

「あ、阿部君、には、内緒、で」
指摘された三橋はオロオロと弁解するようにそう言った。
そう、阿部がいるときにはこんな暴挙はできない。
阿部は三橋の食事のメニューにさえ、細かく口を出すからだ。
栄養バランスだの何だのと「お前は母親か?女房か?」とツッコみたくなるほどだ。

対する御幸は彩りの良い幕の内弁当とサラダだった。
御幸は意外と学生時代から食事メニューを気にしている。
彩りやバランス、そして揚げ物の衣を外したりもする。
そんな自分を嫌いではない。
だけど三橋のようにただただ食べたいものを選んでみたい気もする。

だがそれだけのことだった。
御幸は三橋の部屋で一緒に弁当を食べた後、自室に戻ってのんびり過ごした。
三橋は三橋で阿部が戻るまで、昼寝をしていたらしい。
夕方もは阿部も沢村も戻って来たので、4人で夕飯だ。
本当に何事もない、穏やかな1日だった。

事件が起こったのは、その半月後のことだった。
倉持も含めた5人で、三橋の部屋で部屋飲みをしていた。
今では料理の腕もプロ並みになった阿部が、大量の酒のツマミを用意した。
5人は大いに盛り上がり、楽しい時間を過ごしたのだが。

「シメに、甘いモノ、食べたい。」
三橋がそんなことを言いだし、御幸も倉持も「だな」と同調する。
阿部も「たまにはいいか」と許可し、5人でじゃんけん。
そして負けてしまった沢村が、近所のコンビニまで買い出しに向かったのだが。

「いったい!どういうことっすか!」
沢村はあっという間に戻ってくるなり、そう叫んだ。
全員が呆気にとられ、御幸が「何事だよ?」と聞き返した。
いくら何でも帰ってくるのが早すぎる。
沢村は完全に息切れしているし、全力疾走で戻って来たようだ。

沢村は無言で手にしていた本をテーブルに叩きつけた。
幾多の有名人のスキャンダルを報じた週刊誌。
その表紙には「御幸一也、熱愛発覚!」の文字が躍っていた。

「この女!誰っすか!?」
沢村は週刊誌を取ると、問題のページを開いてまた叩きつける。
そこには「御幸一也、自宅マンション付近でデート」と書かれている。
そして御幸が謎の女性の肩を抱いている後ろ姿が映っていた。
御幸はその女性の耳元で何か話しかけており、横顔が映っている。
女性の方は完全に後ろ姿なので顔は見えず、肩までのウェーブヘアしかわからない。

「お前なぁ」
「もしかしてオレがいない間に部屋に女を」
「沢村」
「やっぱり先輩も女の方がいいんすか!?」
「いや、だから」
「あ〜!オレ、捨てられるんすか〜!?」

御幸は何とか口を挟もうとするが、沢村の剣幕にそれができない。
倉持が週刊誌を見ながら「なぁ、これって」と呟く。
沢村がそこには反応し「倉持先輩、知ってるんすか!?」と身を乗り出す。
そのタイミングで三橋が「ごめん、なさい!」と叫んだ。

「栄純、君。それ、オレ」
「え?」
「一緒にいるの、オレ。この前、一緒に、コンビニ、行った。」
「・・・ハァァ!?」

沢村はマジマジと三橋を見て、今度は週刊誌を見た。
三橋は切りに行くのが面倒だという理由で、髪を伸ばしていた。
肩まで伸びたフワフワウェーブヘアを、今はゴムで束ねている。
ある程度伸びてしまえば、この方が楽なのだ。
御幸とコンビニに出た時には、ゴムを外して垂らしていたのである。

「マジか」
「マ、マジ、です」
完全に目が点になった沢村が三橋をガン見する。
三橋は完全に腰が引けた状態で、何度もコクコクと頷いた。

次の瞬間、まず倉持が爆笑した。
さらに阿部が、そして釣られるように御幸もだ。
沢村だけが憮然とした表情で、三橋はただただオロオロ。
結局シメの甘いものはないまま、部屋飲みは終わってしまった。

後にこのエピソードは沢村と御幸の仲を知る仲間内に秘かに広まった。
そして事あるごとに散々冷やかされることになる。
そのたびに御幸はニヤニヤと笑い、沢村は一生の不覚と悔しがったのだった。
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