「おお振り」×「ダイヤのA」

□挑戦!その3
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「よく動けてるな。」
御幸は軽口を装いながら、声をかけてくれる。
沢村は「そうっすね」と頷きながら、淡々と身体を動かしていた。

4人の自主トレも日程の半分が過ぎ、折り返し点に来た。
前半は眠っていた身体を起こすことが目的。
スローペースで地味な体力作りがメインだった。
だがここからは少しずつハードになっていく。
シーズン前の身体づくりのファーストステップ。
丁寧にしっかりとメニューをこなしていく必要がある。

沢村は穏やかな気持ちで、過ごせていた。
初日こそ昨シーズン不本意だったことの焦りから、三橋に少々からんだりした。
だがその三橋の話を聞いて、目が覚めた。

沢村は昨シーズン絶好調だった三橋がうらやましかった。
だが三橋は「オレは栄純君がうらやましい」と言った。
そして自分の将来の話をしてくれたのだ。
野球選手でなくなったら、阿部との仲も終わる。
だから1年でも多く、現役を続けるべく頑張るのだという。

正直、わからなかった。
三橋も阿部も真剣に好き合っているのはわかっている。
なのにどうして別れを覚悟しているのか。
親とか家とか関係なく、一緒にいればいいと思う。
もしも沢村だったら、絶対に無理だ。
今さら御幸がいない人生を送る自分は想像できない。

だけど沢村は何も言わなかった。
きっと三橋なりに考え抜いた結論なのだ。
沢村ができることは1つしかない。
それは何があっても、三橋や阿部と友人でいることだ。

翌日からの沢村は嘘のようによく動けた。
もう誰かを羨んだり、悔いを残したりしない。
新しいシーズンを戦い抜き、満足いく結果を残す。
今はそのための第一歩なのだ。

「よく動けてんなぁ。」
御幸は軽口を装いながら、声をかけてくれる。
三橋の話は御幸には伝えていない。
プライベートな話なので、勝手に教えていいとは思えなかったからだ。

「そうっすね」
沢村は頷きながら、淡々と身体を動かしていた。
何も聞かずに見守ってくれている御幸に感謝だ。
そして三橋と阿部にも。
おかげでこうして有意義な自主トレができている。

この日もそろそろ終わり。
沢村は三橋とキャッチボールをしていた。
この自主トレの間は、それが日課になっている。
そしてその横では阿部が御幸の素振りをチェックしていた。
打撃フォームの改良を目指す御幸に、阿部がトレーナーとしてアドバイスする。
これもまた日課となりつつあった。

「御幸先輩、ちょっと肩に力が入ってないすか?」
阿部はスマホで御幸の素振りを撮影すると、映像を確認しながらそう聞いた。
御幸が「言われてみれば」と頷いている。
すると阿部が「もっとこうじゃないっすか?」と御幸の肩に触れた。
それを見ていた沢村は思わず「あ」と声を上げた。

「どう、したの?」
怪訝そうに首を傾げる三橋に、沢村は「何でもない」と答えた。
そして「ラスト10球ずつな」と声をかける。
言えやしない。いまさら阿部が御幸に触れたことに嫉妬したなんて。
付き合って何年も経つのに、カッコ悪すぎる。

「それじゃ行くぞ!」
沢村は軽く振りかぶると、ゆっくりと投げた。
綺麗にスピンがかかったボールがすっぽりと三橋のグローブに納まった。
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