「おお振り」×「ダイヤのA」

□再び合同練習、その3!
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6点差でした。
1年生たちはあまり悔しそうではない、むしろホッとしたような表情だ。
だが三橋は後輩たちに「負けた、のに、悔しく、ない、のか!」と叫んだ。

西浦高校の1年生たちが投球練習場に来たのは、御幸が一喝した直後だった。
沢村も青道の1年生たちも、その理由がわからず、気まずい空気になっている。
そこへ飛び込んだ西浦の部員たちは「負けました」と言う。
三橋の球を受けていた阿部が立ち上がると「もう聞いた」と答えた。

6点差でした。
1年生たちはあまり悔しそうではない、むしろホッとしたような表情だ。
だが三橋は後輩たちに「負けた、のに、悔しく、ない、のか!」と叫んだ。
日頃、声を荒げることなどない三橋に、西浦の1年生だけでなく、青道の面々も驚いている。
だが三橋の顔はいつになく本気で怒っている。
いつも怒らないヤツが怒ると、本当に怖い。
沢村はいつもとはまったく違う三橋の様子に、困惑する。

なぁ、青道の部員はほとんどセレクション組だ。
自分たちは県立高校で一般入試、しかも1年生ばかりで6点差は大健闘、なんて思ってないか?
阿部はマスクを外しながら、1年生たちにそう言った。
そのときようやく沢村は、御幸と三橋が怒っていた理由に気が付いた。

問題は6対0という微妙な点差だ。
青道の部員ほとんどの生徒が中学でそこそこの成績を残して、スカウトされた者たち。
だが対する西浦は、一般入試で入ったごく普通の野球大好き少年たちなのだ。
しかも1年生、まだまだ自力では圧倒的な差がある。

御幸が怒っていたのは、そんな相手にたった6点しか取れなかったこと。
そして三橋と阿部が怒っているのは、6点で済んだと選手が満足していることだ。
こんな中途半端な結果で、納得してはならない。
甲子園優勝を目指すなら、なおのこと。
試合の結果より、その心構えの方が問題なのだ。
両校の1年生たちもようやく理解し、申し訳なさそうに項垂れてしまった。
言われるまで気付かなかった沢村は、何だが自分も負けたような、複雑な気分だ。

カタキ、討つ!
不意に三橋がそう叫ぶと、一瞬だけ御幸の顔を見た。
だがすぐに「阿部君!」と叫ぶ。
阿部はマスクをかぶると定位置に座り「5球!」と叫んだ。

返り討ちだ!
御幸もミットをバンバンと叩いて、沢村に投球を促す。
沢村は「負けねーぞ!」と叫ぶと、御幸に向かって振りかぶった。
とりあえずこの負けたような気分を、試合に勝つことで吹き飛ばしたかった。

【続く】
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