「おお振り」×「ダイヤのA」

□3日目、試合前!
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「なぁ、熱い?」
阿部は三橋にそう聞いた。
三橋は首を振って「フ、フツー」と答える。
だがこの状況に覚えがあって、阿部は嫌な予感がした。

試合前のノックも終わり、三橋のウォーミングアップも終わった。
試合開始の時間まであと数分、両校ともベンチに座り、その時を待っている。
阿部は青道のベンチを見回すと、各打者のデータを頭の中で反芻する。
大丈夫。データはちゃんと入っているようだ。

「降谷の球って、高瀬の球より早いけど、打ちやすそうだよなぁ」
「球種が少ないしな」
頼もしく話すのは、我らが4番田島と5番花井だ。
かつて公式戦で対戦した桐青高校のエースと比較して、降谷の球を分析している。

「オレらはとにかく振っていくしかないよな。」
打撃に自信がない沖が、同じくバッティングペケ組の水谷に声をかける。
水谷もうんうんと頷いて、顔を見合わせため息をついている。
そこへ泉が「いい心がけじゃん」と茶化した。

そう、とにかく振っていくしかないのだ。
降谷は確かに本格派の剛球投手だが、このクラスの投手を打てないようなら甲子園優勝はない。
ましてや今は公式戦ではなく、プレッシャーの少ない練習試合なのだ。

そんなチームメイトたちのお喋りを聞きながら、阿部は三橋に目を移す。
三橋は頬を紅潮させて、見開いた大きな目はかすかに潤んでいるようだ。
試合前の緊張と興奮のため?
いや三橋は公式戦のときだって、こんな風にはならない。

「なぁ、熱い?」
阿部は三橋にそう聞いた。
三橋は首を振って「フ、フツー」と答える。
だがこの状況に覚えがあって、阿部は嫌な予感がした。

あの桐青高校との試合のとき、三橋はこんな感じだった。
妙にハイテンションで飛ばして、最後にヘロヘロになりながら投げ切った。
だけどその投球内容は上出来だった。
あれがなかったら、きっと負けていただろう。

まさかまた、ああなるのだろうか。
阿部は思わず眉をひそめ、どうしたものかと迷う。
だが選択肢は1つしかない。
もう試合は始まるし、今のところはただの予感だ。
このままスタートするしかないだろう。

「勝とう、ね!」
三橋が元気よく阿部にそう告げる。
阿部は半ば自棄になりながら「頼むぞ!」と叫んだ。

【続く】
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