「おお振り」×「ダイヤのA」

□初日、練習後の夜!
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手持ち無沙汰だ。
御幸は落ち着かない気分を持て余していた。

「何か不気味なんだよな」
御幸は文句ともグチともつかない口調でそう言った。
夕食もすんで閑散とした食堂に残っていたのは、、御幸と前園と倉持だ。
表向きは主将ミーティング。
だが実際にはただ雑談をしているだけだった。

「まぁ10人の新設校にしちゃ、しっかりした感じだよな。」
倉持はそう答えたが、御幸の感じているこの不穏な気持ちはわからないようだ。
御幸もあえて説明するつもりはない。
初見の相手と当たってどれだけできるかが、今回の練習試合の目的。
だから作戦を立てるような話は一切禁じられているのだ。

「事前に策を考えちゃいけないっていうなら、気にしても仕方ないだろう。全力でやるだけだ。」
前園がもっともなことを言う。
その通り、今何も考える必要はないし、することもない。
わかってはいるが、手持ち無沙汰だ。
御幸は落ち着かない気分を持て余していた。
ちょうどそのとき、食堂の前の廊下を、見慣れた後輩が通り過ぎようとしていた。
嫌な予感がした御幸は「ちょっと待て、沢村!」と呼び止める。

「どこへ行く?」
「いや、ちょっと、最終調整を。。。」
「バカ。お前、明日、先発だろう。今日はもうダメだ。」
予感的中。やはり沢村はこれから屋内練習場で投げ込むつもりだったようだ。
いくら練習試合とはいえ、試合前日にそんなことを許すわけにはいかない。
「え〜?20球!いや10球だけでも」
不満そうに食い下がる沢村に、倉持が「ダメだ、バカ」と頭をはたいた。

「なんか西浦の連中を見てると、中学時代を思い出して、刺激されちゃうんっすよ」
沢村が言い訳がましく、ブチブチと呟いている。
確かに中学時代、仲間内で作った弱小野球部の沢村には、西浦を身近に感じるのかもしれないが。

「お前の中学時代とは全然違うぞ。」
御幸は沢村にきっぱりとそう告げた。
そしてますます増していく不安に、頭を抱えたくなった。
沢村は夏の大会のトラウマでイップスになり、まだ完全にそこから脱していない。
ここでせっかく戻りかけた調子と自信を打ち砕かれるようなことになったら。
しかも明日、Aチームの御幸は沢村の球を受けられないどころか、試合観戦も禁じられている。

「とにかく油断するな。それから今日はさっさと休め!」
御幸は強い口調で命令を下した。
予感ばかりでできることが何もないのは、ただただつらい。
だけどそれを表に出さないことが、御幸の主将としてのプライドだ。

【続く】
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