「おお振り」×「ダイヤのA」

□初日、投球練習!
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球、遅っせぇ。
それが沢村が三橋の投球を見た最初の印象だった。

そもそもこの小柄な投手には、少なからず驚いたのだ。
沢村が知る投手たちは、ほぼ全員自己主張が強い者ばかりなのだ。
その最たるは降谷だ。
とにかく投げたがりで、試合の前後、そして試合中に、監督の背後に立ってアピールする。
すでに引退した丹波や他の強豪校のエースたちは、そこはかとない迫力があった。
比較的おとなしめの川上だって、投球を始めればキリリと引き締まった雰囲気を出す。
だがこの三橋という投手には、まるでそんな気配は見えなかった。

だけど三橋を1人の野球少年として見れば、十分に好感は持てた。
青道の練習施設の大きさや設備に素直に驚き、感激している。
それは沢村にも覚えがあることだった。
中学の野球部は顧問も含め素人集団であり、練習設備なんてないも同然だった。
沢村も初めてここを見た時には、かなり驚いたのだ。
だからその声には共感できたので、いちいち同じテンションで「そうだろ!」と返した。

「まぁ総勢10名の県立高校だもんな」
ポツリとそう呟いたのは、川上だった。
降谷は何も言わなかったが、その呟きには同意したようだ。
そして捕手たちも同じ印象を持ったらしい。
小野と狩場は苦笑いをかみ殺しているようだ。

「三橋、ラスト10球!」
阿部が声を張ると、三橋が頷いた。
青道の全員がこの飛び入り参加のバッテリー、もっと言えば投手を注目している。
だが当の三橋は、そんなことなどおかまいなしに、淡々と球を投げ込んでいる。
視線を無視しているのではなく、集中しているのだ。

「こっちもラスト10球だ。ちゃんと集中しろ!」
御幸も声を張り上げると、青道の3人の投手を見た。
三橋に気を取られていないで、こちらも集中しろという警告だ。
投手たちは顔を見合わせると、慌てて表情を引き締める。
新主将にして正捕手の御幸には、すべてお見通しだ。
沢村は「はいっス」と元気よく答えると、狩場のミットに集中した。
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