「おお振り」×「ダイヤのA」

□挑戦!その12
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「どうっすか!?」
沢村は期待と不安が入り混じった顔で、こちらを見上げてくる。
御幸は困惑しながら、どう答えたものかと真剣に迷った。

地方に遠征し、三連戦を終えた御幸は自宅マンションに戻った。
もちろん三橋と阿部も一緒だ。
三橋は今日も9回に登板し、無失点に抑えた。
今シーズンは絶好調だ。
三橋がクローザーになった試合は、すべて勝っている。

部屋着に着替えたところで、ドアがガンガンと叩かれた。
御幸が「ハァァ」とため息をつく。
こんなに無遠慮な訪問は沢村しかいない。
沢村は試合での負傷が原因で、今はチームから外れている。
体力が落ちないようにトレーニングしつつ、怪我が治るのを待っている状態だ。
本人は至って元気で、体力を持て余しているようだ。
今もその勢いで、帰宅の気配を察して押しかけて来たのだろう。

「何だ?」
御幸はドアスコープを確認することなく、ドアを開ける。
すると予想通り、沢村が満面の笑顔で立っていた。
そして御幸の顔を見るなり「オレの部屋、来てください!」と叫ぶ。
理由を聞こうと御幸が口を開く前に、今度は三橋の部屋のドアを叩いた。

まったく、相変わらず嵐みたいなヤツ。
呆れながら沢村の部屋に入った御幸は「うわ!」と声を上げた。
テーブルの上には食事の用意がしてあったからだ。
ハンバーグと煮物、野菜サラダとご飯に味噌汁。
おそらくこれは沢村なりの善意だろう。
阿部はよく手料理を振る舞ってくれるし、三橋は買い置きの菓子などを分けてくれる。
時間がある今、そのお礼も兼ねて料理をしたということだ。

「どうっすか!?」
沢村は期待と不安が入り混じった顔で、こちらを見上げてくる。
御幸はどう答えてよいものか、答えに詰まった。
なぜなら料理はお世辞にも良い出来には見えなかったからだ。

ハンバーグはかなり焦げているし、煮物はかなり色が濃い。
サラダの野菜は切り方が歪だし、ご飯は水の量を間違えたのか少々柔らかそうだ。
これが2人だけなら、御幸は「美味い」と笑顔で食べただろう。
何しろ可愛い恋人の手料理、それだけで嬉しい。
だけど三橋と阿部も呼んだとなると、大丈夫だろうか?
御幸が返す言葉に困っていたところに「沢村、入るぞ」と阿部の声が聞こえた。

「うお!うまそぉ!」
テーブルを見るなり、三橋が声を上げた。
阿部も「すげぇな。沢村の手料理?」と笑顔を見せる。
沢村が「ホントに!?」と嬉しそうだ。
御幸は2人に感謝しながら「わざわざ悪かったな」と沢村を労った。

「うまそぉ!いただきます!」
かくして4人はテーブルにつき、手を合わせて食事前の儀式を行なう。
三橋や阿部が高校時代、食事のときはかならずこれをしていた。
これもまたメントレの1つらしい。
最初は一緒にするのが少々照れ臭かった御幸だが、もう慣れた。
むしろこれをすると、食事が美味く感じるから不思議なものだ。

三橋が早速、表面が焦げて固くなったハンバーグをバクリ。
そして「噛み応え、ある!」と笑った。
阿部はどう見ても味の濃そうな煮物を食べながら「メシに合うな」と呟く。
御幸は不揃いな切り口のサラダをつつきながら「野菜、美味いな」と頷いた。

「まぁ、阿部ほどうまくはできなかったけど」
「あ、阿部君、最初は、下手だった、よ!」
「そうなのか?」
「うん。高校、合宿で、一緒に、作った、とき!」

笑いながら食べる2人を見ながら、御幸は苦笑した。
沢村もやはり出来がイマイチであることは、わかっているのだ。
三橋や阿部、そして御幸が普通に食べていることにホッとしているのだろう。

あとで三橋と阿部に礼を言わなきゃな。
御幸はかなり柔らかいご飯を食べながら、そう思った。
食べられなくはないし、不味くはない。
だけど店で出て来たら、クレームレベルの料理だ。
それを普通に食べてくれるのは、彼らの優しさだろう。

「栄純、君。ごはん、おかわり!」
三橋が上機嫌で茶碗を差し出した。
沢村が「おうよ!」と笑顔で茶碗を受け取る。
御幸は思わず「早!」とツッコミを入れた。
こうして遠征後の夜はいつもの通り、楽しく過ぎていったのだった。
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