「おお振り」×「ダイヤのA」

□後日談、その6!
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「ウヒ、ヒヒ」
三橋は携帯電話の画面を見ながら、不穏な笑い声を上げた。

三橋にとって、この年末年始は思いがけず楽しいものになった。
それは大晦日の夕方、いきなり現れた沢村によるところが大きい。
最初「泊めてほしい」とメールが来た時には、冗談かと思ったのだ。
だけど沢村は本当に、ここ埼玉までやって来た。

明るく賑やかな沢村は、三橋家を大いに楽しませてくれた。
吃音気味で、声があまり大きくない三橋と、沢村は真逆だった。
とにかく元気よく大きん声で、よく笑う。
実は兄弟が欲しかった三橋は、新たな兄貴分の登場に、大いに喜んだ。
そしてそれは三橋の両親も同じだった。
息子と同い年の気のいい少年の来訪を大歓迎した。
そして三橋家は、例年とは違う楽しい年末年始を過ごしたのだった。

何より楽しかったのは、2人で一緒に練習ができることだった。
元々年末年始は、ノースローということになっていたのだ。
だがさすがにめったにない客がきたことで、なし崩し的に「少しならあり」になった。
結局阿部も参加してくれて、1人が的に、1人が阿部に投げる。
少し見ただけで、あの合同練習よりかなり成長したことがわかった。
それに三橋も成長したということを、沢村が感じ取ってくれたこともまたわかった。
こんな風に付き合える他校の投手は叶以来で、三橋はもうテンションが上がりっぱなしだった。

三が日が過ぎて、沢村は帰ってしまったが、思い出は携帯電話に残っている。
田島や泉、阿部と一緒に、近所の神社で撮影した画像があるのだ。
三橋はそれを待ち受け画面に設定している。
中学はいろいろあって、孤独な3年間を過ごした。
高校になって、こんな風に友人に囲まれ、投球練習までできた。
それは本当に嬉しかったのだ。

「ウヒ、ヒヒ」
三橋は携帯電話の画面を見ながら、不穏な笑い声を上げた。
知らない者から見れば、かなり危なくて怖い。
だが三橋をよく知る者が見れば、本当に嬉しかったのだと察せられる笑みだった。
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