はこいりいちご
□今年の冬
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携帯のアラームが鳴る前に、起きてしまった。
枕元の携帯で時刻を確認する。
もうあと、30分は寝てられた、けど。
とりあえず、隣の井上の髪を軽く梳いてから、手のひらに巻き込まないように慎重に起き上がる。
俺の抜けたスペースに入った冷たい空気に、猫みたいに丸くなる井上に思わず笑うけど。
取り合えず肩先を毛布でくるんでやって、リビングに移動。
冷えた床に身震いしながらヒーターの電源を入れる。
「やけに寒いな」
ベランダ側のカーテンを開けて、外を見下ろせば、一段と冷え込んだ理由が一目瞭然。
「雪、か」
ふとテーブルに目をやれば、テーブルの上に置かれたままのマグカップがふたつ。
昨日の夜、というか今日の未明まで二人で頭をつきあわせて勉強して、その後、ベッドに直行だったもんな。
シンクに下げて洗うついでに、コーヒーメーカーをセットしてから、ヒーターの前で暖まる。
携帯のアラームを解除して、もう一度ディスプレイを確認すれば、9時までもう少し。
初売りに行くには遅すぎるし。
初詣ならもう少し後でもいいだろうし。
手持ちぶさたにテーブルの上の過去問をぱらぱらとめくる。
ひたすら国試への対策の日々が、もうあと一ケ月。
井上はさらにプラス一ケ月。
大晦日も、元旦も、正直、今の俺たちにはあんまり関係ないけど、少しだけ息抜きしてえし、させてやりてえのも本音。
井上が起きたら、初詣にでも誘ってみるかな。
軽く伸びをしながら思案してると、キッチンから漂ってくる、コーヒーの香り。
更に、玄関の新聞受けからの物音と、同じタイミングで、寝室からまだ半分、ねぼけたままの井上が姿を現す。
「おはよう、くろさきくん」
「おう、おはよう」
ふにっと笑って、ヒーターの前にしゃがみこむ丸い背中に、思わずつられて笑う。
コーヒーを淹れに行きがてら、新聞受けから郵便物を出し、井上の前に差し出す。
「これくらいしか、正月らしいものねえけど」
「あははは、そうだねえ。今年はね・・・」
テーブルの上に置く、コーヒーを淹れたマグカップ、ふたつ。
「あ!たつきちゃんからだ!」
見て見て、黒崎くん、と呼ばれ、井上の隣、ヒーターの前に座る。
干支のイラストの下、井上宛てのメッセージと、俺宛のメッセージ。
並んで読むようになって、今年で2回目。
大学からの友人達からは、それぞれ個別に届くけど、
高校のあの時代を一緒に過ごした友人からは、俺たち二人宛てに一枚で来るようになった。
「あー、浅野くん!」
懐かしげに、楽しげに、やたらテンション高く年賀状を眺める井上を横目に、たつきからの年賀状を裏に返す。
同じ住所。
並んだ、名前。
一緒に暮らすようになってから、より一層明確に描くように
なぞるようになった未来に
早く追いつきてえから。
早く。
同じ苗字で、
並ばせたいから。
「着替えて、初詣行って、帰り軽くなんか食って、またやるか!」
「うん!」
頭をつきあわせて、死ぬ気で頑張って乗り越えた去年の冬と、続く今年の冬を、
来年も、再来年も、その次の年もずっと、笑いながら二人で思い出していきてえから。
マグカップのコーヒーが、冷めるのも待ちきれずに、
焦れて飲んで、舌を少し焼いて、
思わず、苦笑する、
そんな始まりの、
今年の冬。
2012.1.17
半月以上前のお正月ネタで、すみません、すみません。
でも、来年も、再来年も、その次の年もずっと、一織を好きで応援したい気持ちだけは本当。
そして今、試験勉強中の、頑張っている大好きな人へ、ささやかですが愛をこめて♪
壱