■Novel(ファンタジー)

□激動の時 *
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 視界が少しぼやけてきた。このまま意識を失ってしまえば、僕は確実に魔獣や獣の餌食になることは間違いないだろう。どうしたものかと、思考が緩慢になった頭で考える。ふっと、式神の存在を思い出した。式神の契約からほぼ半年。それを呼び出したことは未だ一度もなかった。呼び出さなくても3日に1度ほど僕の元へ現れた。だから、僕から呼び出そうとはしなかった。そう言えば、ここ最近は会っていない気がする。1週間ほどだろうか。いや、もっと経つかもしれない。忙しい日々が続いて、僕は自宅や宿に戻ると直ぐに睡魔に襲われた。だから、もしやって来ていたとしても気付かなかったのか、それとも本当に彼はやって来てはいないのか。
 今更呼び出して、彼は怒らないだろうか。仮にも魔王と呼ばれる存在だ。どうしようかと悩み、一端気を失った。ほんの数分の事だったようだが、これは本当にまずい状態だ。今度気を失えば、半日は目覚めないだろう。自分でも分かる。戸惑いがちに印を切る。召喚術は使ったことがある。苦手と言うわけでもない。でも、自分の所持している式神を下ろすのは初めてだ。
 いつかの契約書に浮かんだ紋様。それが大気中にぼんやりと現れる。途端に風が吹き、赤や黄色に染まった葉を巻き上げた。
「お!やっとお呼び出しが掛かったみてぇだな!」
 少し楽しげな彼の声。とても懐かしく感じた。胸の中がじんわりと温かくなる。が、僕が彼の顔を見たとき、彼の表情はしかめっ面へと変化していた。
「おいおいおいおい。何だ、そのザマは」
 一気にご機嫌斜めになった僕の式神。
「・・・ライア。ごめん、今ちょっと動けないんだ」
 声が掠れていた。最後に水分をとったのはいつだっただろう。
「なあ、ルビア」
 ライアが言った。いつもよりも幾分低い声だった。
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