■Novel(ファンタジー)
□新たなるスタート
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ニャー・・・
ニャー・・・
カリ、カリカリカリリ・・・
音に振り返れば、いつかの夜のように、窓を掻く黒い猫。
「・・・ライア?」
僕が立ち上がった反動で、椅子ががたりと音を立てた。窓に駆け寄ってそれに手をかける。そこで動きを止めた。駄目だ、窓を開けては。
「一体、僕は何をしようとしてるんだ・・・」
危うく、禁忌を犯すところだった。
魔族の王、ライアとは、あの試験の日以来会っていない。彼が何処で、何をしているのか知るすべもないし、知ろうとは思わない。彼は魔族で、王で、僕は冥師。相容れない存在。でも、時々思い出す、彼の顔。声。そして、体温。
全く、僕はどうしてしまったのだろう。脳裏によぎる残像を振り払いながら、自分に呆れた。
未だ窓を引っ掻く黒猫を見つめる。黒猫は魔の影響を受けやすい生き物で、一般家庭で飼われる事はほとんどない。もし仮に、この猫がライアの意志によって操られて行動しているならば、彼のことだ。そのうち自分の力でこの国の空間にこじ入ってくるだろう。
キィ・・・
ほら。窓が開いた。
「お前なぁ・・・。気付いてんなら窓開けろよな」
1月会わなかっただけなのに、とてつもなく懐かしく思う。
「・・・・ライア」
呼びかけた声が掠れているのは、緊張のせいだろうか。いや。緊張とは少し違う。会えなくて、会いたくても会えなくて。いつの間にか積もった想い。自分でも浅はかだとは思う。魔族で、魔王で、そして男で。そんな彼を好いてしまった自分。