■Novel(ファンタジー)

□同じ時間を歩きたい *
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 来客が僕の部屋の扉をノックしたのは、その数分後だった。
「はい、お待たせしました」
 扉の向こうに立っていたのは術師たちの総取締冥師である老人。マセン冥師だった。
「マセン冥師がわざわざ、僕に御用ですか」
「少し気になる事があってな。時間があるならば、今から私の部屋に来れるかな?」
「・・・はい。身支度をしてきますので、先に部屋に戻っておいでて下さい」
 返事までに間があったのは、正直迷ったからだった。上司とは言え、僕は彼に対していい印象を未だ持てなかった。古い考え方の染み付いた彼の指示には時々異議を唱えたくなる。実際にそうした事もあったし、渋々従う事もあった。だが、それでもやはり彼は術師や冥師達のトップである。それは事実だ。逆らってばかりではいられない。
 手早く朝食の後片付けを済ませて部屋を後にした。
 上階にあるマセン冥師の部屋は僕等に宛てられたものよりも広く、設備もしっかりとしていた。その分彼にかかる責任と仕事量は大きく、それに伴って部屋の壁沿いに置かれた本棚の中には恐ろしいほど大量の資料。
「お待たせしました」
「ルビア冥師、そこに掛けなさい」
「はい、失礼します」
 勧められた椅子に腰を下ろすと、その向かいにマセン冥師が座った。
「君は、魔族かね?」
「っえ」
 突然の質問にうまく対応が出来なかった。そしてはっとする。昨日、魔獣と闘った後に感じた視線は、彼のモノだったのだと悟った。
「昨日、君の瞳は青かった。そして、術の威力が人間の力で可能とされる領域を逸脱していたと、私は感じたんじゃが・・・どうだね」
「・・・・僕は、魔族では・・・ありません」
 水分を欲して引きつる喉。やっと僕の口から出た答え。それに納得出来ないのか、マセン冥師の眉間にかすかな皺が寄る。
「半分は、人間です」
「・・・・・なるほど」
 今度は納得したらしく、2,3度小さく頷く彼に僕はごくりと生唾を飲んだ。これから何を言われるのだろう。まさか、魔族との混血である事を理由に冥師の位を剥奪するつもりだろうか。確かにいい厄介払いかもしれないが、それで僕が納得する訳がない。何としても食い下がってみせる、と膝の上で握ったコブシに力を込めた。
「混血、と言うことは」
 マセン冥師が口を開き、僕はもう一度唾を飲み込んだ。ごくりと嫌な音が鳴る。
「そろそろどちらかを選ばなくてはならんな」
「どちらか、ですか?」
「魔族と人間、獣人族と魚人族。相容れない存在同士の混血は、成長過程の何処かで選択の時が来る。その時、自分がどちらの種族として生きていくかの選択を迫られる、と。まあ、古い書物から得た知識じゃがな」
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