■Novel(ファンタジー)

□選んだモノは *
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「何ッ!!?」
 襲い掛かる氷柱から逃れようと足に力を入れた。だが、足が一向に地面から離れてくれない。見れば、地面を凍らせていた氷が意思を持っているかのように僕の足首から下に絡み付いていた。
「くッ!!」
 襲い来る氷柱はすぐそこまで迫っている。それを見据えながら、諦めが頭を過ぎる。それでも、自分が冥師である誇りを捨てず、最後の足掻きだとばかりに腕を振り上げた。その時だった。
 ふわりと身体が軽くなったように感じた。そして、目の前には燃え盛る炎。途端に水蒸気と化して消えていった氷柱。すぐに身体を翻す。炎の熱で、足をホールドしていた氷も溶け、自由に動く事が出来た。気配は10メートルほど先の巨木の影。
 指を立てて、宙を撫でるように動かす。一筋の光が撫でた後に現れ、それはまるで蛇か何かのように蠢きながら相手を幹ごと締め上げた。すぐに僕自身も巨木の反対側へと周り、そこで初めて気配の正体を眼に捉えた。
「・・・君は・・」
 小さな少女だった。短く切られた薄い茶色の髪の毛に空のような青い瞳、先端だけがほんの少し尖った耳。
「魔族か・・・」
 魔族との対峙は術師の嫌う事柄のひとつ。魔術で挑めばこちらの敗北は目に見えているから。だからと言って、むやみやたらに接近戦に持ち込んでもまた同じ結果が待っているだろう。魔力も身体能力さえも、人間をはるかに凌ぐ生き物。それが魔族なのだ。
 今回襲われたのが、子供でよかった。成人した大人の魔族に襲われれば、たとえ相手が女性や老人でもこちらとしてはひとたまりもない。冥師の僕でさえ、この子供と張り合うのがやっとだったのだから。
 少女は木の幹に光の線で固定され、動けずにいた。それでも僕を睨む事を忘れない。すぐさま、一枚の小さな紙を彼女の額に貼り付けた。魔族・龍族共に共通する弱点が、額だといわれている。そこに、魔力を一時的に封じる札を貼れば、彼女もしばらくは抵抗らしい抵抗も出来ないだろう。
「このッ!卑怯者!!この変な紙、取ってよ!!」
「それは出来ないよ。取れば君は僕を襲うだろう?」
「当たり前じゃない!取ぉ〜れぇ〜!!」
 じたばたと足をばたつかせる少女の姿は、本当に子供染みていて歳相応の子供の心を持っているのだと分かる。そんな彼女が、なぜ僕を襲うのだろう。魔族は元々、特定の他人を襲ったりしない種族だと、僕は認識している。
「君が僕を襲う理由を聞かせてくれないかな」
「言えばこれ、取る?」
 頬を膨らませながら言う彼女に、僕は苦笑いを浮かべる。どうしたものかと考えて、僕は小さく頷いた。もちろん、無駄にこの命を手放す気はさらさらないし、彼女の単調な攻撃スタイルは先ほどの戦闘で頭に叩き込んでいた。今の彼女ともう一度やりあうならば、僕は勝利する自信があった。
 頷いた僕に、少女は言った。
「ライアを返して」
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