■Novel(ファンタジー)

□予期せぬ来訪者
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 どうしたものかと考えていた時、ふとある違和感に気付いた。
「そう言えば、ファナ。他の冥師方は?」
 僕とファナ以外の冥師たちの姿が見えないのだ。皆ルルネアに滞在していると聞いていたがたったのひとりもいないのだ。僕のその疑問に、ファナはため息をひとつ落とした。
「マセン冥師もその他の冥師も、皆地下の部屋に篭りっきりよ」
「地下に?」
「ええ。神龍がいなくなった事に対しての話し合いか、それともまた領土を広げようと企んでるのか・・・ご老人方は色々お忙しいみたいよ」
 彼女の言葉は皮肉染みていた。
「私たちみたいなひよっこ冥師には言えないような秘密だらけ。嫌になるわよね」
 ふっと、前にアオイの言っていたことを思い出した。
『魔のモノが帝国に入ってこられないのは、領土全土に結界の力が働いているって事は、知っているよね?神龍がいた場所の丁度真下にね、帝国全体を守る結界の核があるんだ。術を持続させるには凄まじい魔力が必要で、それを神龍から吸い上げて消費させているんだよ。冥師になって5年目で、やっと僕もその事実を教えられたんだ』
「冥師は秘密だらけ、か・・・」
 かつて、20年近くに亘って術師の不作が続いた。冥師は愚か、上級術師に昇級する者すら殆どおらず、術師の将来が絶望視されていた期間があった。その不作期に終止符を打ったのが、突如として現れた天才術師だった。史上最年少で冥師の名を手にした少年の名をアオイと言った。
「私もね、アオイと同じ年に冥師になったのよ。彼の名声に影に隠れて余り目立ちはしなかったけど、その年にやっと術師の不作期が終わったのよね。そして、今年の春、貴方が新しく冥師に仲間入りしたでしょう?私と貴方、そして今は除名されてしまったけれど、アオイ。この三人が冥師の新米組みだったわけなの。問題なのは残りの五人よ。古株たちは秘密だらけで、どうも納得出来ないもの」
 腕を組み、唸る彼女に同感だった。重要な採決を行ったりする場に僕らは呼ばれることが少なかった。魔獣の出没が増大した時だって、現場に引っ張りまわされたのは僕とアオイの新米組みだった。どうもすっきりしない。
 ぱんっ、とファナが手を叩いた。
「はいっ、考え込むのはここまでにしましょ!私が貴方をここに呼んだのは、秘密だらけのご老人方に文句を言ってやりましょう、って思ったからなんだけど。どうやら貴方にはその前に式神を持ってもらわなきゃね」
 本棚から何冊かの本を取り出し、どんっと僕の目の前に置いた。分厚いそれを眺め、術について調べたり学んだりするのは久しぶりだなと、何処か暢気な事を考えていた。
 移動するのに便利な式神は空中を移動出来るタイプのモノだ。だがその種類も多様で、自分にあった種族を選んだりするのが大変だったりする。真剣に書物を漁りだした僕に、ファナは紅茶を出してくれた。その味が何処となく懐かしく感じたのは、その紅茶の葉がアオイの家にあったものと同じ種類のものだったからだった。
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