■Novel(ファンタジー)

□激動の時 *
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 季節は廻り、山は赤く染まり、皆冬支度に追われる秋。風情溢れる森の中を、僕は全速力で駆けていた。目の前を行く魔獣を追って。僕のわき腹からは鮮血が流れ落ちていた。そんな僕以上に痛手をおっている魔獣。強大な蜘蛛のような姿を持ったそれは、時々木々を倒し、時には木に這い上がりながら逃げ惑う。それを決して逃すまいと追う僕。でも、人と魔獣ではそのスタミナが違う。僕の体力の限界も近い。簡単な呪文と印を切り、魔獣が地面に着地しようとしたところを狙った。見事それは命中し、そのまま魔獣は動かなくなった。
 この1月ほどで帝国内での魔獣目撃情報が飛躍的に増加した。その原因の究明はマセン冥師とその他数名の冥師・術師たちが受け持った。僕やアオイは領内に現れた魔獣の退治に日々追われていた。こんなことが毎日続けば、嫌でも体力は消耗し、怪我をすることも増えた。僕のわき腹の傷も、昨日負ったものだ。やっとふさがってきたかと思えばまた傷口が開いてしまった。
「ッ!」
 少し動いただけでも激痛が走る。さっきまでは魔獣退治に神経を集中させていたから平気だったが、一端気が緩むと痛みが増して感じられた。応急処置として回復系の術を使う。ちりちりとした感覚の後、ふっと痛みが和らぐ。おおきく息を吐き、その場にずるずるとしゃがみ込んだ。本当に限界かも知れない。髪が汗によって顔に張り付く。頬を流れて顎から落ちる汗を拭うことすら億劫だ。
 冥師の僕でさえこの有様。術師たちに至っては既に死者まで出ている。そのために、急遽複数人数での行動を始めた術師たちもいると聞いている。帝国兵の活動も活発化し、各地の町へと分配して送り出された。町の周囲には防衛壁があり、更にその周りに帝国兵が常時見張りに付いているため、一般人への被害は今のところなかった。
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