■Novel(ファンタジー)

□Full moon
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 この国では、夜、窓を開けてはいけない。魔のモノが入ってくるからだ。それは物であったり、者であったりと様々。けれど、良くないものとされている。10年ほど前、隣の家の老夫婦の部屋には、鏡が落ちてきた。その鏡は嘘・真実共に映し出し、老夫婦を惑わせた。やがて老夫婦は罪を犯し、帝国兵に連れて行かれた。その鏡は、魔鏡だった。魔のモノは禁忌であり、人々にとっては災いをもたらすものとされる。
 今日もまた、夜の帳がおりると辺りは闇で支配される。今夜の空には星ひとつすら見ることが出来なかった。ただ、それでも輝く満月だけがぽっかりと空に浮かんでいる。その光景が異様で、僕は窓を閉め、更にカーテンをひく。
僕は小さな家にひとりで暮らしていた。この国で、僕くらいの歳での一人暮らしはそう珍しいものではない。今年で19。15歳で成人と認められる帝国では普通だった。むしろ、親元で暮らしている事の方が周りから冷たい目にさらされる。親のスネ齧りだのなんだのと煩く言われる事だろう。でも、僕はそんな子達がうらやましかった。なんて言ったって、僕には両親がいないから。

「…お休みなさい」

 手に取った写真立て。そこに映っているのは両親ではなく、祖父母だった。彼らは僕の血縁者ではない。けれど、僕を自分達の本当の子供、孫のように可愛がってくれた。時に怒り、共に笑い、泣き、温もりと幸せを与えてくれた。そんな彼らに感謝していた。今は隣町でひっそりと暮らしている。彼らの温もりと、実父母のくれた“ルビア”と言う名。彼等に対する感謝の念や愛情が僕を支えている。
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