■Novel(ファンタジー)

□狼と龍
1ページ/7ページ



【狼と龍】


「ル・ビ・ア〜っ」
「ぅわぁッ!?」

 突然の後方からの衝撃で危うく転倒しそうになった。何が起こったのか確かめようと首を後方に捻ると視界の端に白い何かが見えた。ふわりとしたそれは僕の知人の髪。嬉々としてぴんと立つ同色の耳は獣のそれだ。

「ろ、ロッシュ!?」

 僕は思わず声をあげた。
 ここは帝都ルルネア。妖狼族である彼は森に住む獣人だ。人里に、更には帝国の主要都市であるこの場所にいるはずのない存在。しかし僕の目の前でふさふさと白い尾っぽを振るその存在は確かに彼だった。
 出会い方こそ悪かったものの、今の僕と彼は友人関係を築きあげていた。彼の住まう地域付近に出向く機会があれば必ずと言っていいほど彼に会っていたし、彼のみならず彼の群れの妖狼族や狼たちともそれなりに面識が出来た。

「何で…?」

 何で、ここに?と問おうと口を開いた時、やっと回りの状況に気付く。往来を行く人々は足を止め、突然現れた獣人を見ていた。中には嫌悪感を露わにする者もいれば恐怖に顔を歪ませる者もいた。

「あ…。か、彼は僕の式神なんです。新入りだから、ちょっと人間の街が物珍しいらしくて、はしゃいじゃって…」

 それらしい言い訳、というかフォローを口にした。僕の顔はこの辺りではかなり知れている。なんだ、冥師様の式神か、と皆納得してくれたようだ。

「え、俺ってルビアの式神になったっけ?」
「…頼むから、しばらくは黙っててくれ…」

 とにかくこの人通りの多い場所から離れようと、僕は妖狼族の友人、ロッシュの腕を引っ張った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ