■Novel(ファンタジー)

□英雄伝
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【英雄伝】


 俺の生まれ育った小さな村。大都市からは遠く離れており、今もなお昔ながらの生活を続けている自然溢れるのどかで美しい場所だ。男は村の戦士として自衛団を設立し、村を護った。時には狩に出て貴重な食料を捕ってくる。
 いつもの日課で村の中をぐるりと見回りをしていた時だった。突然、村の女が悲鳴を上げた。急いで駆けつけると、そこには数名の女が恐怖で腰を抜かし、震えていた。彼女等の目の前には黒い肢体に凶器のような爪や牙をもつ巨大な生き物。

「魔獣かっ!!」

 すぐに背中に背負っていた剣を構え、戦闘態勢にはいる。握り締めた剣はこの村に伝わる宝剣。金の光を帯びた柄に透き通るように清らかな輝きを放つ刃。赤い宝石が目を惹く。またの名を“聖剣”といった。

 グアァアアァ、アァァ…ッ

 腹に響く魔獣の威嚇音と叫び。まずは女たちの安全が先だ、と魔獣を彼女等から遠ざけるために自分が囮となる。俺に奴の気をひきつけるために挑発めいた攻撃を繰り出す。振りかぶった宝剣の刃が魔獣のすぐ足元の大地を抉った。奴の赤く光る瞳が俺を見た。自分たちから魔獣の気が逸れた事を察した女たちは恐怖に震える身体を叱咤し、なんとか安全な場所へと避難する事に成功したようだ。

「さぁて、ひとイッちゃいますか!!」

 俺は魔獣相手ににっと笑みを浮かべ、聖剣の柄を強く握り直した。
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