■Novel(ファンタジー)

□散るは桜、舞うは蝶
1ページ/10ページ



【散るは桜、舞うは蝶】


 眼前には幾千もの兵。それが波のように押し寄せてくるのが見える。クラスレスを挟んだ先にある小国等の連合軍だ。それを迎え撃つ帝国兵は数こそは敵を上回るも、それでもいざ敵を目の前にすると新入りの兵士は恐怖を覚えるものだ。経験の浅い兵士を多く組み込んだ小隊は上手く機能せず、敵を前に足を竦ませていた。演習での訓練とは訳が違う。
 兵士は上司を仰ぎ見た。

「は、早く指示を出してくださいっ!」
「…あと、13秒」

 この小隊の隊長である若者は敵を見据えたまま答えた。兵士は眉根を寄せ、敵兵と上司を交互に見た。数日前に隊を編成した際にやってきた若い隊長に皆不安を感じていた。隊長に任命された若者の歳は15歳。若すぎる上司を兵士たちは信用しきれずにいた。兵士たちの視線を集めながら、若者は右手で素早く複雑な印を切った。
 その間にも敵はみるみる迫りくる。

「5秒!!」

 上司の声に兵士たちははっとした。若者は自らの右手を地面に触れさせ、目を閉じる。

「4,3,2…」

 突如、轟音と共に大地が鋭い矛となってあちこちから突き出した。敵兵の大半が吹き飛び、途端に悲鳴と呻きが辺りに響く。幼さを残す童顔の双眸は力強く、柔らかな印象を与える色素の薄い髪は戦場の風に踊る。熟練の兵士以上に冷静な若者はまさに隊長としての器を持っている。圧倒的な力だった。

「全軍ッ、突撃!!」

 何千もの帝国兵が突撃を開始し、地面が揺れた。この戦いは、帝国の圧勝で幕を下ろし、わずかに残った敵兵はすぐに撤退していった。敵軍を正面から迎え撃った小隊隊長を務めた若者の名はアオイ・ユフィ。彼は数ヵ月後、史上最年少で冥師という術師最高位の称号を得る事となる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ