■Novel(ファンタジー)

□予期せぬ来訪者
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 窓から差し込んだ朝日が眩しくて寝返りをうつ。その時、はっとして飛び跳ねるようにしてベッドから起き上がった。昨夜の行為の名残はなく、僕は衣服をきちんと身に着けている。帯の部分が少しだらしないが、慣れない作業をあの彼がやってくれたのだと思えばくすぐったい気分になる。その彼は、朝日を浴びつつ、部屋の隅に置かれたデスクに寄りかかるようにして立っていた。
「起きたか」
「・・・ん。おはよう」
 目が覚めてすぐ、人にこうして挨拶をしたのはいつ以来だったろうか。その相手が想い人である事が更に嬉しく感じる。ライアは手に一枚の紙を持っていた。それを渡され、書かれた文字を目で追う。
「ルルネア、か・・・」
 またお呼びが掛かったらしい。今度は冥師全員を招集するような内容ではなく、僕個人に宛てたモノだった。差出人は、ファナ。
「行くのか」
「無視する訳にもいかないからね」
 結局、その日の昼過ぎに家を出た。ルルネアに到着したのはその2日後。歩きと馬車での移動ではどうしてもそれくらいは掛かってしまう。ルルネア礼拝堂内に振り当てられた冥師の部屋の内のひとつに、ファナの姿があった。僕にあてられた部屋の隣だ。荷物を自室に置き、すぐに彼女の元を訪れた。つもりだったが、どうやら彼女はご立腹の様子だった。
「どうして貴方は招集の度に2日も3日も掛かる訳なの?待ってるこっちの身にもなってもらいたいわ!」
「すいません・・・。僕、移動に役立つ式神とかって持ってなくて・・・」
 そう言ったのは嘘だった。ライアに頼めばルルネアまで半日も掛からないだろう。家を出る前にも送ってやろうかと言われたが、丁重に断ったのだ。何せ、移動中ずっと彼に抱えられていなければならない。体勢の一番安定する俗に言うお姫様抱っこと言う抱き方で、だ。それは流石に勘弁してもらいたい。
「全く・・・。じゃあ、これを機に移動手段に役立つ式神でも新しく所持することね」
 ため息混じりに言われ、これは本当に考えておかなければならないかも知れないと感じた。いちいち自宅まで帰る事を止めれば済むことなのだが、そうなれば祖父母との距離が出来てしまい、彼らの事が心配だった。他人から言わせれば半年、一年平気で顔も合わさなかったのによく言うよと言われるかも知れない。それでもやはり、すぐに会いに行ける範囲内に生活の場を置きたかった。
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