Gift Story
□線香花火に願いを
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お詫びと言うわけでもないけれど、私は、台所から急いでお茶を作り、縁側に再び戻った。
今は、高杉さんが野暮用で出かけていることもあって、大久保さんと私、そして桂さんの組み合わせで並んで座る。
「杏凛さん、ずっと働きっぱなしで疲れただろう? さぁ、ここに足を入れて少しでも涼むといい」
そう言って、桂さんが差し出してくれたのは、水が入った小さな桶。
あっ、これ、時代劇かなんかで見たことある……かも。
「わぁ! ありがとうございます!!」
草履を脱ぎ、その水の中に足を入れてみる。
おそらく、飲み水と同じ水を使っているから、そんなに冷たくないと思っていたけれど、
「気持ちいい……」
意外と、火照った足を程よく冷やしてくれていて、私は思わず息を吐いた。
「それは、よかった。大久保さんも、いかがです?」
「頼む」
(……あっ)
大久保さんの言葉に、私は思わず目を見開いた。
薩長同盟を結んでから、どことなく、長州と薩摩との間にあった溝が浅くなってきていると思う。
それが私にもわかるのは、今、こうして近くに大久保さんと桂さんがいて、こんなふうに、一緒になって座っているからで。
今まで犬猿の仲だったなんて信じられないくらい。
「何を惚けている、小娘」
「えっ?」
「暑さで疲れてしまったのかな? もし良ければ、手拭いを冷やしてくるよ?」
「あっ! いえ! そうじゃないんです!」
私は、慌てて手を振る。
「大久保さんと桂さんが、こうして一緒になってるところを見てたら、なんだか嬉しくって」
「嬉しい……?」
桂さんの問いに、私はこくりと頷いた。
「昔のことはよくわからないけど……とにかく、大久保さんと桂さんが仲良くなったことが、すごく嬉しくって……」
そう言うと、桂さんは目を細めてふわりと微笑んだ。
「そうかい。杏凛さんが、喜んでくれているなら、こちらも嬉しいよ」
対する大久保さんは、相変わらず不機嫌そう。
でも、その"不機嫌"は、大久保さんなりの喜びだっていうことを、私は知っている。
この前も、大久保さん行きつけの饅頭屋さんに連れていってくれたお礼に、大久保さんが好きなお菓子を届けに行った時、
「なぜ、一人でうろついている? 小娘」
その時は、めちゃくちゃ怒られるかと思ったけど、
「勘違いするな。たまたま、長州藩邸に用があるだけだ」
……なんて言いながらも、危ないからって、私を長州藩邸まで送ってくれた。
不機嫌なのは、心配してくれたり、嬉しくて、でも言葉が上手く出てこない証拠みたいなもの。
ちょっと不器用な、そんな大久保さんに、私はいつしか、こうして時々長州藩邸にやってくることを楽しみにしていた。
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