Gift Story

□線香花火に願いを
1ページ/8ページ





「あっついなぁ……」


季節は夏。

私は、藩邸の玄関前で水撒きをしていた。

これで、少しは涼しくなるかなって思ったんだけど、ジリジリと照りつける陽の光は、思った以上に厳しい。




「この時代じゃ、まだ温暖化なんてないよね?」


「なんだ、それは」


「きゃっ!」


不意に声をかけられて驚いた私は、柄杓を持ったまま振り向いた。


───バシャッ!!


と、同時に跳ね広がる水。


「……あ…」


そして、私の目の前には……


「………この私に水をぶちまけるとは。いい度胸だな、小娘」




怒りモード全開の大久保さんがいた。











線香花火に願いを
















「本当に、すみませんでした……」


縁側にて、手拭いを渡しながら頭を下げる杏凛。



杏凛から手拭いを受け取った大久保は、未だに髪の毛が濡れたままだ。

水も滴るいい男。

その言葉に恐ろしいほどぴったりだと思った杏凛は、しばらく大久保から目が離せなかった。


「……なんだ」


自分に視線を向けられていることに気づいた大久保が、少し不機嫌気味に聞いた。

その拍子に、長い髪を伝って零れた雫が首筋にまで流れ落ちる。

その姿に色気を感じ、杏凛は異常なまでに慌てた。


「いっ、いえっ! なんでもないです!!」


同様を隠そうと必死な杏凛に、大久保が一言。


「まさか、この私に見惚れていたわけではあるまいな?」


そんな姿のまま、大久保は床に手をつき、ずいっと杏凛に近づいた。

どこか嬉しそうな、だが意地悪さも含んだ声色で聞いてくる大久保に、杏凛は本心を見透かされたように思い、更に困惑する。

しかも、至近距離で迫られているものだから、杏凛の心臓は爆発寸前だ。




「まぁまぁ、それぐらいにしておいてあげては?」


ふんわりとした声が、縁側に響く。


「桂さん!!」


地獄で仏、のような状況に、杏凛は心からホッとしたように微笑んだ。


「いたのか、桂くん」


「えぇ。随分前から」


「いながら立ち聞きとは。まったく、悪い癖を身につけたものだな」


「これは、失礼。以後、気をつけなくては」


「……ふん」


微かに火花を散らせている2人の会話を、杏凛はただただ交互に見比べながら聞いていた。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ