Gift Story

□とんでもないもの
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「昨日よりは、今日。今日よりは、明日……か」


たかが、小娘一人に……。

……まったく、この私も落ちぶれたものだな。


「……? 何か言いました?」


書物に目を通していた小娘が、首だけこちらに振り向き、聞いた。




「ほぅ……。小娘、お前もやっと読み書きに興味を示すようになったか」


敢えて小娘の質問には答えず、小娘の嫌がりそうな言葉を投げてみる。


「わ、私だって本くらい読みます!」


予想通りの反応に、思わず吹き出す。


「例えば?」


「た、例えば……」


うーん……と、わけのわからない唸り声を上げ、しばらく思案する小娘。

ぶつぶつ言う中で、"まんが"という言葉が聞こえた。


「ふん。どうせ、その"まんが"とやらも、たいした書物ではないのだろう?」


「き、聞こえてたんですか!?」


見下ろす小娘の表情は、あまりにも滑稽だ。

そんな小娘に笑って頷いて見せると、更に顔を紅潮させて俯いた。



小娘にとってはなんとも思っていないであろうその動作に、私は何やら疼くものを感じ、そっと小娘に近づいた。


「……俯くな」


「え?」


私は、小娘の小さな顎を掴み上げた。


「俯くなと言っているんだ」


掴み上げた顎を少しだけ自分に寄せる。

小娘は、その突然の行動に少なからず驚いているようだ。


「あ、あの……!?」


「口を閉じろ」


「……っ!」


自分でも驚くほど出た低い声に怒気を感じたのか、小娘はびくりと身体を震わせて閉口した。

小娘の小さな瞳に、恐怖にも似た色を帯びる。




「上を向け」


「え?」


「上を向け。そして、その瞳には、常に私だけを映すのだ」


言った途端、小さな目が大きく見開かれた。


「お、大久保……さん?」


小娘の問いかけに答えず、ただ小娘の頬を撫で続ける。

戸惑いを隠せない小娘の表情に吸い込まれるように、空いている手が小娘の腰に回る。


「っ!! お――……」

「利通だ」


「え?」


「誰もいない、私とお前だけの時は、名前で呼べ」


「で、でもっ………―――ッ!!」


困り果てた小娘の体が、なんらかの衝撃でがたんと揺れた。

無意識に動いていたらしい。

私は、いつの間にか小娘を本棚に追い込んでいた。




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