Gift Story

□とんでもないもの
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「小娘」


書斎の中、分厚い本を広げながら小娘を呼ぶ。


「はいっ」


返事をしながら、小娘は湯呑みを机の上にコトン…と静かに置いた。


「今日も極渋です!」


「当然だ」


そう言って鼻で笑った後、茶の香りを楽しんでから一口すする。

「どうですか?」と言わんばかりに、小娘は両手に拳を握り口を固く結び、私の返事を待つ。


「ふん……小娘にしては、上出来だ」


「やったぁ!」


握っていた拳をバッと挙げ、そのままぴょんぴょんと飛び跳ねる。











とんでもないもの














「うるさい! 書斎の中は静かにしろ!」


そう一喝すれば、小娘はしゅん…と俯いてしまった。


「す、すみません……」


「私にしては珍しく褒めてやった直後に躾を忘れるとは……お前もまだまだ子供だな」


そう言ってやれば、頬をぷくっと膨らませて迫力のない目でこちらを睨みつける小娘。

不意に、膨らませていた頬をしぼめさせて、小娘はぽつりと呟いた。


「だって、大久保さんが素直に褒めてくれたんだもん……。だから、嬉しくって、つい……」


自らの手を絡ませながら、ごにょごにょと呟く小娘。

その顔が、微かに赤らんでいるように見えて、気がつけば私は、思わず顔を綻ばせていた。




「一言余計なものが聞こえた気がするが……まぁ、美味い茶を淹れたことに免じて許してやろう」


そう言って、自分とはかなり小さい位置にある小娘の頭に手を置いた。

軽くくしゃくしゃと撫でてやれば、小娘は驚いた顔をしてこちらを見つめた。


「………………」


「なんだ」


「……いえ。今日の大久保さん、すっごく優しいなって」


思いがけない言葉に、私は目を丸くする。


「いつもだったら、ずっと嫌味ばっかり言い続けるのに……」


「……お前は、本当に一言多い小娘だな。お前が望むのなら、いくらでも言ってやってもいいが?」


そう言って、頭に置いたままでいた手に力を入れ、顔を近づけてやれば、


「い、いえっ、結構です!」


と言って、私の手を振り払いながら首をぶんぶんと振った。


「ふん」


そんな小娘を、鼻で笑いながらもいつまでも見つめる。



喜んだと思えば、急に悲しそうな表情をしたり。

いじけたり、笑ったり、慌てたり。

その小娘のくるくると変わる一つ一つの表情に、私はその度に気持ちが揺さ振られ、そんな自分に驚かされる。


「まったく……とんでもないものを連れ込んでしまったな……」


初めのうちはそう思った。

だが、今となっては、それなしでは心の安らぎ所がなくなってしまう。

それほどまでに、私にとっての小娘の存在は、日に日に大きくなっていく。




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