夢桜の歌
□ずっと
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「以蔵ーっ!」
今日も、あいつの声が響き渡る。
「以蔵! ねぇ、以蔵ったら!」
なんなんだ、騒々しい。
「あのねっ、私……卵焼き作れるようになったの!」
卵焼き……?
「うん。今までね、火の加減とかがよくわからなくて、焦げちゃったり生だったりして、なかなか上手く出来上がらなかったの。………ここにも卵焼き用のフライパンがあればなぁ……」
ふら………なんだ?
「あ、ううん。なんでもない」
……今日のあの卵焼きは、お前が作ったのか。
「そう! ……ねぇ、食べてみてどうだった?」
………………。
悪くはなかった。
「本当!? 良かったぁ」
……なぜ、そんなに喜ぶんだ。
「だって、嬉しいんだもん」
嬉しい……?
「うんっ。美味しいって言ってくれると、頑張って作って良かったなぁって」
………………。
「自分の料理を食べてもらうって、結構緊張するもんだよ?」
……そうか。
「うんっ!」
なぁ、一つ聞いてもいいか?
「なぁに?」
どうして、俺にそこまでして料理を作ってくれるんだ……?
「………………」
………………。
「だって……」
…………?
「好きな人には、ずっと美味しい料理を食べていてほしいもの」
…………!!
「ずっと……笑っていて、ほしいもの……」
………………。
「………じ、じゃあ、私、もう行くねっ! 剣の稽古しなきゃ!」
………杏凛。
「………っ?」
………………。
「………………」
………………。
「……以、蔵?」
また……。
「え?」
……また、卵焼き……。
作って………くれる、か……?
「…………!」
今度は、少し甘めのものが食いたい。
「……っ………うんっ! わかった!!」
泣いたり。
笑ったり。
顔をしかめたり。
喜んだり。
ふくれたり。
こいつは、休むことなく表情をくるくると変える。
俺は、いつしかその存在に、目が離せなくなった。
こうして、俺のために作ってくれる料理でさえもいとおしく思う。
何より、俺のことを思って作ってくれることが嬉しかった。
杏凛……。
帰るまでの間だけでもいい。
ずっと、俺の傍にいてくれないか……?
俺に、その笑顔を守らせてくれないか……?
END
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