夢桜の歌
□新しい命
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季節は、春。
縁側で日向ぼっこしていると、寺田屋の庭からひらひらと桜の花びらが舞い降りてきた。
「わぁ…」
落ちてきた花びらを、そっと手の平に乗せる。
「今日も、桜が綺麗ですね」
「あぁ、そうだな」
隣には、優しい微笑みを湛えた半平太さん。
お仕事が一区切りついて1週間の休暇を貰った半平太さんは、今こうして私と一緒に過ごしている。
お仕事で過ごせなかった分、こうして2人でゆっくり過ごそうって半平太さんからの申し出が、私はとても嬉しかった。
何より、
「お腹の子は、どうだい?」
「元気いっぱいですよ。今も、ほら」
半平太さんの手を取って、お腹に触れさせる。
触れたところから、お腹の子がぽかっと小さく叩くのがわかった。
「ははっ。早く出たくて仕方ないって感じだな」
そう言って、私のお腹を愛おしそうに撫でる半平太さん。
私のお腹に、新しい命が宿っていることに気づいてから、約数ヶ月。
それからだんだんお腹が膨らんできて、時々、私の中で赤ちゃんが動いて、私のお腹をぽかっと叩く。
最初はびっくりしたけれど、でも日が経つにつれてそれが嬉しくて。
今日みたいに、いいお天気の時は、一緒に日向ぼっこして赤ちゃんに話しかけるのが日課になっていた。
「もうすぐ、なのかな……」
私は、自分のお腹をさすった。
赤ちゃんが、ぽかっとまた叩いた。
「元気な子が、生まれてくるといいな」
「そうだね」
半平太さんと2人、顔を見合わせて笑う。
お腹の子の鼓動を感じ、隣で半平太さんと微笑み合う。
こんな、幸せなことが他にあるだろうか。
いずれ、この子が産まれてくる。
辛いかもしれない。
痛いかもしれない。
半平太さんとの間に生まれた命。
2人で、一緒に育んでいくって、そう誓ったあの夜。
半平太さんが傍にいない間、何度も不安な気持ちを抱えたこともあった。
でも、半平太さんとの誓いを思い出せば、そんなものはすぐにどこか消えていった。
だから、大丈夫。
この子を産んで、半平太さんと一緒に育んでいきたい。
私は、改めてそう決意した。
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