創作小説
□永遠に
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鳥の声さえも飲み込む、深く、暗い森も
降り注ぐ陽光により、神秘的な静けさと穏やかな姿をあらわにする
温かな温度を宿す白い陽光の中で、さらに熱をもつ眼差しを絡めあう恋人達がいた
人目を忍ぶのは、人間が定めた禁忌の恋ゆえに
一人はまろやかな受肉の器から、花の芳香を香らせる華奢な少女
だが、相対するのは、人間でない妖かしの存在
そうと知れたのは、人間と同じ形を持ちながら、背にいただく血のごとき深紅の翼のせいだ
「私は今までに多くの最愛の者を喰らい、その度に純白の翼を赤く染めてきた。これは赤鉄族の性。皆自分にないものを求めて、人間に恋をし続ける。その肉体が、永遠を生きるゆえに。そして…ノア。私はあなたを見つけた」
豊かな緑の髪を風に遊ばせた、性別を持たない赤鉄族を、ノアは魅いられたように見つめる
「誰もが恐れる私を、あなたは受け入れるばかりか愛してくれた。私はその愛に応えたい」
人喰い族として、人間に嫌悪される事実を知りながら、この腕の中に飛び込んできた少女
それがまたカルヴァンを喜ばせ、愛しさを募らせた
「ノア…あなたは気高く美しい。その魂の輝きゆえに、私はあなたを求めずにはいられない。この恋の苦しみより、私を解き放てるのは、あなたしかいない」
「ええ、カルヴァン。私もあなたを愛している。世間で、赤鉄族がどれほど恐ろしい存在かをうたわれても、この気持ちだけは偽れない。でも…でも、私…」
胸元でゆるく握られたノアの手が、微かに震える
愛らしい顔に滲み出る、狂おしい恋の情熱と
我が身の結末に対する恐怖が、複雑に交じりあう
カルヴァンは、熱に浮かされた、恋焦がれる眼差しをノアに向ける
だが、カルヴァンは情熱を抑え、ノアの震える手を取り、少女の心を気遣う優しい口づけをする
「私はあなたと出会ってから、多くの時を過ごしてきた。あなたに愛され、愛の証を受け取った人達に嫉妬したりもした。私以外の誰かと、あなたが時を過ごすなんて。考えるだけで胸が痛い。でも、駄目なの…」
完璧な美しさを内包した存在は、ノアを包容し耳元で愛を囁く
涙に濡れる愛しい緑の瞳を、背にいただく優美な翼と同じ色の瞳で覗き込む
「とても怖いの」
少女の恐怖を取り除こうと、カルヴァンはしっとりと涙に濡れる頬に優しい口づけを贈り、ノアの淡い青色の髪に指を滑らせる
その心地よさに、思わすノアの唇から熱い吐息が零れる
「恐れる事はない。赤鉄族が人を喰らうのは、最大の愛の証なのだから」
人間は赤鉄族の愛の形を、本当の意味で理解しているわけではない
その違いが、今正しくカルヴァンの傍らで表情を曇らせる少女を悩ませ、恐怖を抱かせている
「けれど、体を喰われれば人間は死んでしまう。カルヴァンを愛する私の心までも消えてしまう。そんなの私には耐えられない。カルヴァンは平気なの。私が死んでしまうのよ」
ノアの脅えとは逆に、カルヴァンの魅力的な薄い唇が笑みを刻み、赤い瞳が優しい色をおびる
その様ら、ノアは一瞬たりとも目を離せない
カルヴァンの一挙一動を見落とさないよう
その存在の全てを心に焼き付けるために
「いいえ、それは死ではない。共に生きる生き方を、今と違えるだけのこと。愛しい魂と存在を、私以外に属するものとして繋ぎ止める肉体を、この罪深き翼に抱くために。私はあなたを喰らうのです。ですから私は、それを死とは呼ばない」
腕の中で、ノアが弾かれたように顔を上げ、カルヴァンを見る
花の顔には、心を悩ませる問題が解決されたことを喜ぶ、無邪気な笑みが浮かんでいた
カルヴァンは安堵に頬を緩めた
カルヴァンの存在が、少女の脅威となってはならない
それは、今をノアのために生きる、カルヴァンの存在理由を揺るがすものだから
「では、私の心はあなたと共にあることができるのね」
「そう。永遠に…」
ノアは決意を秘めた瞳でカルヴァンを見つめ、花のように微笑む
この美しい存在と共に生きる幻想を夢見て、ノアはカルヴァンに身を寄せ、肌に優しく、唇に硬い緑の髪に口づける
「もう怖がったりしない…私はあなたが好き。誇り高い眼差しも、美しい深紅の翼も、私の名を呼んでくれる優しい声も全て。だから、もっと側にいたい…あなたの全てになりたい」
ノアの心で固く誓われた決意を読み取り、感極まったカルヴァンは、もう一度ノアを強く抱き締めた