チェスゲーム
□リデル
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やわらかな雲が浮かぶ、鮮やかな空に、黒いフードをまとった、妙齢の魔女がいた。
銀色の細い杖に、優雅に座り、長い黒髪を風にそよがせて、空を飛んでいる。
どうやら目指す場所があるようで、黒い瞳で見つめる先には、一人の女性がいた。
彼女は、仕事の邪魔にならないように、銀色の髪をたばね、広い屋敷の一角にある
古井戸から水をくみ、野菜を洗っている。
二十歳くらいの可憐な面差しをして、いかにも人が良さそうな、優しい青い瞳をしていた。
魔女は一気に彼女のいる場所へと飛んでいく。
「こんにちはリデル」
リデルは野菜を洗う手を止めて魔女を見上げ、にっこりと微笑んだ。
「こんにちは魔女さん。また来てくれたんですね」
二人は顔馴染みのようだ。
「そりゃ、見ているさ。あんたには、イライラさせられるからね。今日は直接文句を言おうと思って来たのさ」
魔女は魔法の杖からおり、しょんぼりするリデルの側まで歩いてくる。
「ごめんなさい。私…」
「あのねぇ、あんたが善良な人間で、誰かの役にたちたいって思うところなんかは、凄く大好きさ。でもね、何でもそつなくこなしちまうくせに、自分は全然何もできないって思ってる性格は大嫌いだ」
魔女はリデルの両親から、懸命に名付け親を頼まれ。その懸命さに心を打たれ、祝福もしたから当然思い入れもあった。
この国で、魔女に名をもらうということは、素晴らしい才能に恵まれると思われていた。
だが、農作物を売って、何とか生計をたてているような小さな町の中でも、一番貧乏な家だったので、リデルは幼い頃からすぐに、町の大きな屋敷で、使用人として働くこととなった。
先輩風をふかせた偉そうな使用人や、人を顎で使う屋敷の主人。
わがままな奥様に、だだをこねる主人の子供。
彼らのスパルタに近い、要求の嵐をこなすことにより、リデルはあらゆることができるようになってしまったが、散々なじられるので、すっかり自分に自信をなくしてしまっていたのだ。
それが魔女には悔しかったのだ。