Novel1
□デリカシー
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「いたたたた……」
帰投中のヘリの中。レンは先のミッションで負った傷に顔を顰めていた。
「大丈夫? 結構勢い良く飛ばされてたよな」
コウタが苦笑混じりにレンを心配している。
「まあそれが普通っていうか……」
コウタの苦笑に苦笑で返すレン。
「でもさ、リンクエイドする身にもなれよ? 危機的状況の中のリンクエイドって大変なんだからさ」
ポンとレンの肩を叩きながら笑うコウタに、レンも笑顔を浮かべ、爽やかに
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
と言った。その瞬間コウタの笑顔が凍り付いた。
「なんでだよ! 俺戦闘不能になってなかったじゃん!」
乗せるだけだった手に力を入れて、ガクガクとレンを揺する。
「リンクエイドした後がかなり危険なんだよコウタは。一回でも攻撃食らったら倒れるってなんだよ。渡した体力返せって言ってるようなものだよあれじゃ」
ニコニコしながら毒を吐いていくレンにコウタは打ちのめされたらしく、レンから離れてガックリと項垂れた。
「……ソーマ?」
レンは項垂れているコウタを無視して、隅の方で外を眺めているフードの銀髪に声を掛けた。
「………」
だが彼は無言を貫いている。
「ソーマ」
悪戯心からなのかなんなのか、レンが名を呼びながら無言の彼の頬をフニフニとつつく。
「……やめろ」
イラついたようにレンの手を振り払うソーマ。それに気を悪くしたような素振りも見せず、レンはソーマの後ろへ回り込む。
「っ!! 何する気だ!!」
背後を取られ、警戒心を露にしたソーマを、レンは無言で抱き締めた。
「……クソッタレが」
眉を潜めて抱き締めているレンにそう吐き捨てながらも抵抗を見せないということは万更でもないようだ。
「いいなぁ……俺も女の子とああいう事したい……」
羨ましそうに二人を眺めるコウタ。
レンとソーマは恋人同士だった。極東支部でもそれは有名な事で、それを茶化す者もいれば羨ましがる者もいる。コウタは後者だ。
茶化す者の前でこのようにいちゃつく事はないのだが、今回は茶化す者は一人もいない。だからいちゃついているのだ。尤も、レンが一方的にちょっかいを出しているようにも見えるが。
「あ、そうだ。アネット」
「はい」
今回一緒にミッションをこなしたもう一人──アネット・ケーニッヒに顔だけを向けたレンにアネットはきょとんとした顔を返した。
「えーとさ……女の子とミッションに行くことが少ないからアレなんだけど……せめて下に短パン穿いてくれないかな……?」
「なんでですか?」
ますますきょとんとした顔で首を傾げたアネット。彼女の問いに狼狽えたようにレンは視線を泳がせた。
「あ……えと……その……」
意味のない言葉を並べながら視線を彷徨わせる。自然と腕に力が入っているのか、ソーマが少し呻いた。
「おい……」
「あ、ごめん」
苦しそうに顔を歪めてレンを振り返ったソーマに、レンは慌てて力を緩めた。
「……で、どうしてなんですか?」
「あー……うん、ごめん。なんていうか……見えるんだよね。……下着が」
視線を泳がせながらボソリと呟いたレンに、一同は
「「「………」」」
沈黙して彼を変なものを見るような視線で見つめた。
「……え?」
なぜそんな目で見ているのか分からない彼は、きょとんとした顔で皆を見回していた。